特別対談 竹村慎治×大木トオル
5. 家族の一員として一緒に暮らすという表現

――セラピー活動の出発点から現在に至る道程を改めて振り返っていただくと、どういう感想をお持ちですか。
大木 : チロリが日本でセラピードッグ第一号となり、そして、高齢者施設や障害者施設に行くようになったわけですが、最初はハードルが高かったですね。セラピードッグのことが理解されませんでしたから。しかし、チロリがすばらしいセラピードッグになってくれたため、国が捨て犬のことを真剣に考えるきっかけになり、動物愛護管理法が成立するなど徐々に環境が変わってきて、各福祉施設各病院がセラピードッグを受け入れてくれるようになりましたし、捨て犬の問題にも社会が目を向けてくれるようになりました。チロリがいなければこうした状況はこなかったと思います。ちなみに、それまで法律的に犬や猫は廃棄物の位置づけでしたから、廃棄物扱いの捨て犬が人を助けるとなれば、これは認めざるを得ないですよね。チロリを通じて40万頭の捨て犬、捨て猫の問題に取り組んできたわけですが、ある意味、まさかこういう形で捨て犬の問題に立ち向かうことになろうとは思ってもみませんでした。いまでこそ、セラピードッグは全国区となり、本になり、銅像になり、ニュースにもなったわけですが、そのきっかけをつくってくれたのはチロリですから、チロリの偉大さを改めて感じます。半面、人は犬たちから助けられなければ、つまり犬から何らかの恩恵やメリットがなければ、犬に対して人間は動かないという現実をも知りました。ちょっと悲しいですね。
――アメリカでは人間と犬の関係はどういう状況なのでしょうか。
大木 : 私はアメリカにいて、セラピー活動や音楽活動をしていて動物愛護団体の方々に褒められました。そしてそのあとに「あなたは日本人ですね」と言われ、さらに「われわれは日本人を認めない。なぜならば、経済大国と言われながら、多くの犬を殺している民族を認めるわけにはいかない」と面と向かっていわれたことがあります。アメリカでも理由があれば動物を殺すことはありますが、法律がしっかりしていますから、無闇に処分したりすることはありません。それに対して日本の場合、かつて動物は廃棄物の扱いでしたから、動物たちを殺しても壊した感覚でしかない。そうした精神構造は捨て犬や捨て猫のいまの現実をみれば、払拭されていません。動物愛護の精神はアメリカやヨーロッパに比べて日本は相当遅れているのが実情です。
――セラピードッグの活動を始めた当時はそういう言葉すらなかった……。
大木 : そうですね。アメリカではセラピードッグが医療の現場に入って活躍していましたが、日本では盲導犬という言葉がようやく通じ始めたぐらいの状況でした。すべて一から説明しなければならないどころか、説明してもなかなか理解されず、受け入れてもらえませんでした。生みの苦しみというのはそういうものだと思いますが、チロリという偉大な名犬がいてくれたからこそ、乗り越えられたと感じています。繰り返すようですが、チロリが果たした貢献度はとてつもなく大きい。いまの状況はチロリが導いてくれたものといっても過言ではないと思います。
法律があっても「自分事」でなければ
――日本と欧米では愛護動物に対する考え方が違うと言われています。その相違点はどこにあるとお考えですか。
大木 : アメリカやヨーロッパは家族の一員として見ています。犬を飼うのではなく、犬と暮らすと表現します。昔からそうです。それに対して日本はペットを飼うと表現されます。かつて犬は外につながれ、残飯を食べ、犬畜生といった言葉がありました。暮らすと飼うとでは次元が違う。飼うというのは人間から見て“飼ってやる”という意識、捨ててもいいという意識ですが、暮らすとなると、お互いの権利が発生して、お互い認め合うことです。
――いまペットの置かれている状況について、どう感じていますか。
大木 : 法律が制定され、動物たちの命を守るところまできたが、ここで一番変えなければならないのは人間たちの意識です。法律ができても意識が変わらなければ意味がない。人の意識を変えるのは難しいことですが、他人事ではなく、自分事にしないと何も変わらない。これがいま人間に求められているテーマではないでしょうか。どんなに愛護だといっても、本当に心の中でそうなっているのかどうか、そこが問われると思います。そのときに成しえて体制と心がきちっとしたときに日本人は世界に向かって堂々と胸を張れるのではないかと思います。
――最後にペット保険についてお聞きしたいのですが、ペット保険はどのように貢献すべきとお考えですか。
大木 : 動物も人間と同じように病気をします。怪我もする。亡くなったときは葬式の問題もあります。そうしたことは家族として対応しなければならない問題ですから、そこに人間と同じように保険が位置づけられます。ペット保険は基本的に犬や猫を守って挙げる大前提であり、問題発生時に立ち向かうためのシステムです。しかし、その根底には愛情がなければ無意味です。オンビジネスだけで走り、その方向性を間違えると崩れる。保険会社が儲かるという意識ではいけないと思う。入って良かった、うちの愛犬を守ってくれてありがとう、と感謝される形にしないといけないと思いますね。犬や猫たち、愛犬家、愛猫家といっしょに歩むという姿勢が大事だと思いますね。
――本日はありがとうございました。