HACHI 約束の犬 | ペットを愛する詩人・園田恵子のシネマ日記

ペットを愛する詩人・園田恵子による映画コラム。ペット好きならではの独自の視点から、さまざまな映画のコラムを多数掲載、今後も続々と新作映画コラムが追加されていくので、お見逃しなく!また、PS保険のご契約者様に向けたプレゼントも多数ご用意しております。(プレゼントについて

HACHI 約束の犬

HACHI 約束の犬

ハチの生涯は、日本だけではなく、今や海外でも知られ始めている。アメリカでも、2004年に2冊の子供向け書籍が出版された。そうした本と共に、アメリカの愛犬家の間で秋田犬の人気が広がっているという。そしてたいていは「ハチ」という名前が名づけられるのだという。

「ハチ」の物語は、日本ではなじみがあり、「ハチ公物語」として、映画化もされている。結末もわかっているから、今更、泣いたりもしないだろうとタカをくくって出かけたら、みごとに号泣してしまった。

永遠不滅の号泣映画

HACHI 約束の犬

大正13年の渋谷駅がそうであったように、舞台はアメリカ東海岸郊外の、ベッドリッジ駅という設定になっている。

ある雪の夜、自宅のあるその駅に降りたった大学教授のパーカーは、駅で迷い犬になった秋田犬の子犬と出会う。子犬の持主が見つからず、妻の反対にあいながらもパーカーはこの子犬を飼うことにする。

すばらしい出会いの場面だ。コートの衿を立て、ものさびしい郊外の駅に降りたつパーカー。その足もとに、じゃれつくようにまとわりついてくる子犬の、親密な感触。そのあたたかさ。それが決定的な出会いになるとは知らずに、なんともさりげない、運命の出会いを果たす。

犬版、貴種流離譚(きしゅりゅうりたん)

HACHI 約束の犬

リチャード・ギア演じる主人公の大学教授パーカー・ウィルソンが、同様の大学教授であるケン(ケイリー=ヒロユキ・タガワ)に依頼して秋田犬のルーツを調べる場面が、とてもいい。ここで他の犬種にはない、秋田犬の特質、日本人の私たちが気がつかなかった視点でわかりやすく語られていく。

ハリウッドの脚本家によって、すばらしい貴種流離譚の犬版、という成熟した物語に練られている。

『犬界のメリル・ストリープ』レイラの驚嘆すべき演技力!!

「ショコラ」「サイダーハウス・ルール」で知られる名匠、ラッセ・ハルストレム監督ならではの、奇をてらわない誠実なストーリー運びのなかで、ふいに胸に迫る瞬間が何度も訪れる。

ハチに流れていく時間、主人の不在の時間を生きる、ハチの切なさを、こんなにも的確に描写できるなんて。それぞれの年代のハチを、3匹の秋田犬が演じ別けている。秋田犬たちのおそるべき演技力、名演ぶりに驚かされる。

調教の難しいとされる秋田犬の演技レッスンは何か月もかかったという。ハチ役の3匹の犬は、かつての調教犬のなかでも、とびぬけて聡明な犬たちで、人間の役者たちも顔負けの演技力を示した。

特に晩年のハチを演じた秋田犬のレイラは、共演者である駅員カール役のジェイソン・アレクサンダーによって「犬界のメリル・ストリープ」と呼ばれたくらいである。なるほど、老け役の細かい描写力は、メリル・ストリープをほうふつとさせるものがある。

HACHI 約束の犬

ラストシーンに登場する、レイラ演じるハチは、だんだんと足腰が弱り、毛並みもボサボサになっていく。そんなハチが、足を引きずるようにして歩き、雪の降りつもるなか、うずくまって、じっと駅の改札の方を見る、そのせつないまなざし……。

ハチが画面に登場するだけでもう涙が止まらなくなったし、今こうして映画のラストを思い出しただけでも、涙があふれてくる。なんという、人間の役者顔負けの豊かな表現力!この「犬界のメリル・ストリープ」ことレイラ演じるハチには、すっかり心を奪われてしまった。

シナリオを読んだリチャード・ギアも号泣したという。この映画は、犬と暮らす方には、ぜひ見てほしいと思う。犬のいたずらや、やんちゃぶりに腹を立てていたとしても、きっと怒りは鎮まることでしょう。そして、どんな犬や、時には猫だって、あなたが仕事や旅行で不在の時には、少なからず「ハチ」の姿やまなざしで、あなたを待っていることを思い浮かべてほしい。

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筆者・園田恵子プロフィール(公式HP
大学在学中、文芸誌からデビュー。第一詩集『娘十八習いごと』が出版される。 歌舞伎や能の要素を新鮮な視点で現代詩に取り入れた手法は、若い世代の詩人の中でも異彩を放つ。エッセイストとしても活躍している。 テレビ朝日系列『ウィークエンドシアター』レギュラー出演など、映画関連の仕事も多く手がけている。
詩集に『日月譚』他、エッセイ集に『猫連れ出勤ノート』、『東京枕草子』、新刊に翻訳を手がけた『ペルセポリス1・2(2007年カンヌ映画祭審査員賞受賞映画『ペルセポリス』原作。) 』他多数。
2006年からの企画で、新人の発掘と詩集出版のプロデュースも手がけている。