犬がしつこくなめる理由とは?やめさせる方法を行動診療科獣医が解説

最終更新日:2024年03月28日

愛犬が自身の体をずっとなめている、あるいは飼い主の口や手をなめていることはありませんか? これらの行動には理由があり、ときに問題を抱えている場合があります。

本稿では、動物行動学や問題行動に詳しい獣医行動診療科認定医の奥田順之先生に、犬がしつこくなめる原因と問題性、予防と対策についてお話を伺いました。

犬がしつこくなめる理由とは?やめさせる方法を行動診療科獣医が解説

犬がしつこくなめる原因

犬自身の体をなめる理由とは?

体を清潔に保つため

犬が自分の体をなめるのは、体を清潔に保つための行動です。体の表面に付着したごみを取り除く、抜け毛の処理など、皮膚の健康を保つ効果が知られています。こうした行動は、心身ともに健康な犬でも普通に起こる行動です。

かゆみや痛み、違和感のため

犬は、皮膚病によるかゆみがある場合、関節の痛みや違和感を伴う疾患がある場合に、それらの場所が気になって、しつこくなめることがあります。また、それらが治っても、なめ続けてしまうこともあります。

ストレスのため

犬は、体の病気がなくてもストレスを原因として、必要以上に自分の体をなめてしまう場合もあります。特に、暇でやることがない環境では、「何かしたいけど、何もすることがない」という欲求不満の状態を解消するため、必要以上に体をなめるという行動に出てしまう場合が多いのです。

人間の部位をなめる理由とは?

口をなめるのはおねだりや甘えから

家族は犬にとって群れのような存在です。犬が群れの仲間の体をなめるのは、親和的行動と呼ばれ、互いの親密な関係を確認しようとする行動です。中でも相手の口をなめる行動は、狩りに出た親が帰ってきた時に、食べ物を吐き戻してもらうためのおねだりの名残で、甘えの意味もあります。

犬自身の不安を和らげるため

犬には、家族に怒られたあとに、その相手をなめに行くという行動もよく見られます。これは、犬が相手に脅威を感じたり、不安を感じたりしているときに、自分自身の不安を和らげるためです。あまりしつこくなめる場合は、家族との関係に不安があるのかもしれません。

ものをなめる理由とは?

満たされない欲求を残念に思って

犬には、ご飯を食べ終わった後に床をなめ続けたり、寝る前にクッションをなめ続けたりする行動もよく見られます。

これは、犬が「まだ食べたい」という欲求が満たされず、残念でいたたまれない思いのまま、床をなめるという行動にぶつけている状態です。また、寝る前に、「もっと遊んでいたいけど、それが終わってしまった」という思いから、クッションや周りのものをなめることがあります。さらに、それが癖になって、寝る前のルーティンとなっている場合もあります。

犬がしつこくなめる問題点とは?

犬がしつこくなめる問題点とは?

脱毛やなめ壊しを起こし、さらに気になってなめるという悪循環に

特に自分の体をしつこくなめると、なめ続ける場所の毛が抜けてしまったり、なめ壊してしまったりして、皮膚の治療が必要になる場合があります。さらに、皮膚に炎症が起こると、痛みやかゆみが発生し、その部位が余計に気になり、なめる行動が悪化するという悪循環に陥ってしまいます。

また、なめることに没頭してしまっている犬は、「なめ」の妨害を極端に嫌がる場合があります。こうした場合では、止ようとした家族にかみつき、ケガをさせることもありますので注意が必要です。

犬がしつこくなめるのを予防する、やめさせる方法としつけのポイント

犬がしつこくなめるのを予防する、やめさせる方法としつけのポイント

動物病院で犬の体調を確認

犬のなめるという行動は、アレルギーのような体の病気によって発生する場合がよくあります。まずは、動物病院で体の病気がないかを調べてもらいましょう。

犬のストレスを抑制し、安心できる環境を

犬のなめる行動は精神的なストレスによっても起こります。犬にとってやることがなく暇な状況や、体罰によって家族との関係に不安が大きいことは、なめる行動の原因になります。安心して休める場所を用意する、散歩の量を増やす、飼い主とのトレーニングの時間や遊びの量を増やす、叱責や体罰を行わないといった、犬が精神的に安心して満足できるような生活の提供が何より必要です。

専門家、行動診療科に相談する

犬の体に病気がなくても、なめる行動が非常に強く、体の一部をなめ壊してしまう、日常生活に支障を来すような状態に陥ってしまうかもしれません。そんなときは、行動診療科のある動物病院を受診し、犬との適切なかかわり方について指導を受けたり、犬に薬物療法を実施したりしなければならない場合もあります。

犬がしつこくなめる行為に対して、してはいけない飼い主さんのNG行動

犬がしつこくなめる行為に対して、してはいけない飼い主さんのNG行動

飼い主が気にしすぎて、犬が意図的になめないように注意

犬がなめること自体は、自然に起こる行動です。飼い主さんから見ると、気になってやめさせたくなってしまうものでしょう。

でも、犬のなめる行動を止めさせるために声をかけたり、おもちゃで気を引いたり、おやつを与えることを続ければ、犬は「何かをなめていれば、飼い主さんの関心を引ける、いいことが起こる」と学習します。そして、犬は飼い主さんの気を引くために、意図的になめる行動を繰り返すようになるかもしれません。ですから、飼い主が気にしすぎるのは禁物です。

犬の体に異変があれば動物病院を受診しましょう

逆に、脱毛や皮膚がただれるほどなめているのにもかかわらず、放っておいてしまうのもいけません! なめる原因を明らかにするために、動物病院を受診しましょう。

 

まとめ

犬のなめる行動が気になったら飼い主が気遣ってあげましょう

犬が体をなめる行動はよくあることです。「少し多いかな?」と感じたら、散歩や運動などの活動を増やして、充実した生活を送るように心がけてみましょう。

「多すぎるのでは?」と感じたときは、犬の体や心の問題が原因になっているかもしれません。まずは、かかりつけの動物病院で体のチェックをしてもらってください。体に問題がなければ、行動診療科のある動物病院で診察してもらいましょう。

そのほか愛犬の行動やしぐさが気になったら、獣医師監修の「犬の問題行動、どうしたらいい?」を併せてご覧ください。

執筆者プロフィール

奥田順之 先生

ぎふ動物行動クリニック院長、獣医行動診療科認定医、鹿児島大学獣医学部講師(動物行動学)。
犬猫の殺処分問題を解決するために、2012年NPO法人『人と動物の共生センター』を設立。家庭犬トレーナーと共に、犬のしつけ教室『ONE Life』を開業。2014年には問題行動の診察を専門に行う『ぎふ動物行動クリニック』を開業。著書に『"動物の精神科医"が教える犬の咬みグセ解決塾』ほか。