犬のしこり・腫瘍の原因・病気とは?病院に連れて行くべき症状を獣医師が解説

最終更新日:2024年07月25日

犬の体にしこり・腫瘍ができる原因としてどんな病気が考えられるのでしょうか。また、病院に連れて行くタイミング、予防や対処法などを獣医師の三宅亜希先生に監修いただきました。

そのうち小さくなるだろう、治るだろうと思っていたら、病状が悪化し、取り返しのつかない事態になってしまうかもしれません。気になることがあれば、すぐに獣医師さんに相談しましょう。

犬のしこり・腫瘍の原因・病気とは?病院に連れて行くべき症状を獣医師が解説

しこりとは?

―しこりといってもさまざまな種類があると思います。それらについて教えてください。

しこりとは、できもの、腫瘤、こぶなどの「かたまり」のことです。硬いものややわらかいもの、どこまでがしこりかの境界が分かりやすいものやわかりにくいもの、しこりが皮膚と一緒に動くものや動かないもの、脱毛や赤みが生じるものや生じないものなどその様子はさまざまです。炎症があり痛みが生じたり、違和感があったりすると、犬が気にして舐めたり噛んだりする場合があります。

犬のしこり・腫瘍の原因として考えられる病気とは?

 犬のしこり・腫瘍の原因として考えられる病気とは?

―犬にしこりができる病気として、どんなものがありますか?

イボ

いわゆる「イボ」と呼ばれ、しこりの中で頻繁に見られるものは「乳頭腫」というものです。老犬(高齢犬)で体の表面にできることがありますが、これは良性の腫瘍です。痛みが出ることはありません。

乳腺腫瘍

犬の乳腺は、前足の脇の下から後ろ足の付け根近くまで分布しています。乳腺腫瘍は乳腺にできるしこりで、犬の場合、良性と悪性の比率はだいたい50%ずつと言われています。

最初は、しばしば小豆くらいの硬いしこりとして発見されます。あまり大きくならないものは良性の可能性が高いと考えられますが、絶対ではありません。また、良性であれば転移はしませんが、悪性だと血管やリンパ管を通して転移する可能性があり、肺に転移する場合が多いとされています。

確率としては、避妊手術をしていないメス犬の4頭に1頭で見られます。若齢時の避妊手術によって予防可能で、初回発情前に手術をすれば発生率は0.5%(200頭に1頭)まで下げられます。その後、発情が来るたびに予防効果は弱くなります。

脂肪腫

脂肪腫は、皮下組織に発生する脂肪組織の良性腫瘍です。通常はやわらかいしこりとして発見されます。背中や太ももなど、脂肪の多い場所にできることが多いようです。

同じく脂肪組織を由来とする脂肪肉腫は悪性ですが、脂肪腫と脂肪肉腫は見た目だけでは区別できません。また、同じようにやわらかいしこりができる別の腫瘍も存在します。そのため、やわらかいしこりだから脂肪腫だ、と安易に考えるのは危険です。

脂肪腫のより詳しい原因、症状、予防については獣医師監修の「犬の脂肪腫」を併せてご覧ください。

表皮嚢胞

表皮嚢胞(ひょうひのうほう)は皮下に嚢胞という袋ができて、そこに角質や皮脂のかたまりがたまる良性腫瘍です。「粉瘤(ふんりゅう)」とも呼ばれます。多くは、皮膚表面が赤くなって盛り上がり、しこりをつまむと、中から灰色の老廃物が出てくる場合もあります。

表皮嚢胞ができる犬は多発する傾向があり、同時に何個も見つかることがよくあります。しかし、これは良性腫瘍であり、それ自体で痛みが出ることはありません。しかし、大きくなると違和感を覚える場合があります。また、嚢胞が破裂すると周囲に激しい炎症が起こり、痛みが出ます。

組織球種

皮膚組織球腫は、良性の腫瘍で、3歳未満の若い犬で発生が多いとされていますが、高齢犬でも見られることがあります。皮膚に円形・ボタン状・ドーム状の赤いしこりができ、急速に大きくなりますがほとんどの場合は2.5センチ以下で増殖は止まります。

好発部位(発症しやすい場所)は、頭部(特に耳)、四肢です。痛みはなく、犬も気にしません。ほとんどが数週間から数か月で自然になくなりますが、そのまま残ることもあります。

悪性リンパ腫

わかりやすいように悪性リンパ腫と表記していますが、リンパ腫には良性は存在しないため、リンパ腫=悪性腫瘍(がん)です。リンパ腫にはいくつかのタイプがありますが、しこりができるのは「多中心型」という体表にあるリンパ節が腫れてくるタイプか、「皮膚型」という皮膚に病変部が起こるタイプです。体表リンパ節は、顎の下、首の付け根、脇の下、内股の付け根、膝の裏にあります。

通常、これらのリンパ節は非常に小さいですが、リンパ腫の際には大きく腫れます。悪性腫瘍ですが、悪性度が低いものから高いものまであるため、早期に検査をして適切な治療をすることが大切です。

悪性腫瘍(がん)の詳しい原因、症状、治療や予防法については、獣医師監修の記事「犬のがん(悪性腫瘍)」を、悪性リンパ腫については、「犬の悪性リンパ腫」を併せてご覧ください。

肥満細胞腫

肥満細胞腫は、肥満細胞が腫瘍化した悪性腫瘍です。皮膚にしこりができるものがありますが、皮膚炎のような症状が出ることもあります。しこりの形状はさまざまで、見た目だけではまったく診断ができません。

代表的なしこりができる腫瘍について紹介しましたが、大事なのは「良性なのか悪性なのかの判断は見た目ではできない」ということです。これは獣医師でもできません。

また、大きくなったらどうするか考えようと放置してしまった結果、体の中で転移してしまっていたという危険もあります。そのため、放置することもお勧めできません

獣医療やペットフードの進歩、飼い主さんの予防意識の高さや適切な生活環境に伴って犬の寿命は延び、人と同じようにその死因の1位は悪性腫瘍です。

肥満細胞腫の詳しい原因、症状、治療や予防法については、「犬の肥満細胞腫」を併せてご覧ください

犬にしこり・腫瘍を見つけたときの対処法

犬にしこり・腫瘍を見つけたときの対処法

―どの程度のしこりであれば、様子を見てもいいですか?

しこりができる場所や硬さ大きさで良性・悪性の判断はできません。小さくても悪性である可能性はゼロではありません。一般的に悪性腫瘍は早く大きくなると言われていますが、大きさが変わらないかどうか経過を観察することはおすすめできません。悪性腫瘍の場合は腫瘍細胞を取り残さないように実際のしこりよりもかなり大きく切除する必要があり、できるだけ小さいうちに切除したほうが犬の負担が少なくなるからです。

―動物病院を受診すべき状態について教えてください。

繰り返しになりますが、腫瘍は見た目だけで良性なのか悪性なのかの判断ができません。どのようなしこりであっても、一度は動物病院の受診をお勧めします

「PS保険」では、24時間365日、獣医師による無料※電話相談サービス「獣医師ダイヤル」を提供しております。病院へ足を運ぶまでの応急処置を含む医療相談から、素朴な疑問まで幅広く応対してくれるので、もしものときも安心です。

※:通話料はお客さまのご負担になります。

※当サービスは、株式会社チェリッシュライフジャパン(CLJ)と提携し、アニクリ24のサービスを提供するものです。

※Anicli24(アニクリ24)は獣医師による電話医療相談サービスを提供する動物病院です。

犬のしこり・腫瘍の診断・検査について

―悪性腫瘍が疑われる場合、どのような診断、検査をするのでしょうか。

まず、しこりの大きさを計測します。さらに、しこりに細い針を刺して、しこりの中にある細胞を採取し、それを顕微鏡で観察したり、しこりの一部を切除したりして病理組織検査を行います。細い針を刺す検査では通常麻酔は必要ありません。さらに、血液検査やレントゲン検査、エコー検査を行って腫瘍の転移がないかを確認します。

犬のしこり・腫瘍の治療について

―犬の悪性腫瘍はどのように治療するのですか?

外科治療

多くの腫瘍では外科手術が第一選択になります。外科治療で腫瘍を切除したあとに、必要に応じて化学療法なども行う場合があります。

化学療法

腫瘍によっては、化学療法が第一選択になります。また、転移や犬の状態により外科治療が適用されないケースや、外科治療と組み合わせて行うケースもあります。腫瘍の種類によって抗がん剤の種類や、投与のスケジュールは異なります。副作用のリスクがあるため、定期的に血液検査を行います。また、犬の便や尿に抗がん剤が排泄されるため、家庭で排泄物の処理をする際には気を付ける必要があります。

放射線治療

腫瘍によっては、放射線治療が第一選択になります。また、転移や犬の状態により外科治療が適用されないケースや、外科治療と組み合わせておこなうケースもあります。対応施設の数が限られているため、簡単には選択できない治療法です。

犬のしこり・腫瘍を予防するには?

犬のしこり・腫瘍を予防するには?

―予防法や飼い主が日ごろから気を付けるべきことを教えてください。

体の中にできる腫瘍は外からわかりませんが、皮膚や皮膚の下などに触れるしこりは、飼い主さんが発見できる可能性が高いと言えます。そのため、子犬のころから全身を触られることに慣れさせておきましょう。また、乳腺腫瘍は予防が可能です。犬がメスであれば、積極的に避妊手術を考えたがほういいでしょう。

―犬のしこりを早期発見できるように、普段どのようなことを気にしていればいいですか?

毎日、犬の体を触ることです。ブラッシングや抱っこの際に、全身をチェックする習慣をつけるといいでしょう。触られることが苦手なタイプの犬では、おやつなどのご褒美を与えながら少しずつ触れる時間や範囲を増やしていきましょう。

まとめ

犬にしこりを見つけたら、「がんだったらどうしよう」と動揺するかもしれません。いろいろと調べ、見た目や触った感覚から、このしこりがなんであるかを知りたいと思う気持ちはとてもよく理解できます。

ですが、イボや表皮嚢胞など、ある程度見た目で判断をつけられる可能性があるものは少なく、一般的に腫瘍はその見た目だけでは判断できません。思い悩む前に動物病院を受診して病理検査を受けられることをおすすめします

獣医師 三宅亜希

監修者:三宅 亜希

獣医師。日本で唯一の電話相談専門病院である「電話どうぶつ病院Anicli24」院長。電話による24時間365日の相談、健康診断や未病予防の啓発、獣医師向けのホスピタリティ講演などを中心に活動。

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