犬がしきりに体をかく原因とは?病院に連れて行くべき症状を獣医師が解説

最終更新日:2024年08月19日

犬が体をかくことは、珍しいことではありませんが、かゆみが治まらず、かきむしって脱毛するなど、ほかの症状が見られるようになったら、どんな病気が考えられるのでしょうか。また、病院に連れて行くタイミング、予防や対処法などを獣医師さんに伺ってみました。

犬が普段と違って、やたらに体をかく、脱毛するといた動作の異常や症状の変化は、何かの病気のサインかもしれません。すぐに獣医師さんに相談しましょう。

犬がしきりに体をかく原因・病気とは?病院に連れて行くべき症状を獣医師が解説

犬が体をしきりにかく原因は?

―犬が体をかきむしる原因としてどんなものが考えられますか?

換毛期

換毛期にうまく生え変わらず、毛玉のようになってしまうことがあります。これによって細菌繁殖が起こり、かゆみや違和感から、犬がかいたり、かんで毛のかたまりを抜こうとしたりすることがあるのです。

ノミやダニ、蚊などの虫さされ

犬がノミに刺されると、ノミの唾液に対してアレルギー反応が起こり、皮膚炎を発症します。多くは、腰やお尻、首周りに現れ、激しいかゆみを伴います。

アレルギーやアトピー

アレルギーやアトピーは食物や花粉、ハウスダストなど環境中のものが原因となり、かゆみが起こります。一般的に、食物アレルギーは顔を、アトピーは耳や肉球、指の間をかゆがることが多く、子犬のころから発症します。

ストレス

ストレスから直接かゆみが起こるというよりも、ストレスがかゆみを悪化させる原因となります。犬にストレスがかかることで自律神経に影響を及ぼし、免疫力が低下します。

外耳炎

外耳炎は、細菌やマラセチア(カビの一種)が原因となり、再発することが多いのが特徴です。また、かゆみがひどく、悪化すると耳の穴が腫れたり、耳が真っ赤になって熱をもったりすることがあります。

細菌感染

ブドウ球菌が原因になる膿皮症や毛包炎が代表的です。どちらも腹部や背中、体側にできやすく、手足の先端にはできにくい傾向があります。

寄生虫

疥癬(かいせん:ヒゼンダニによる皮膚感染症)に感染すると非常に強いかゆみが出ます。

自己免疫疾患

自分の体を自分で攻撃してしまう病気を自己免疫性疾患と言います。皮膚に起こる自己免疫性疾患には、天疱瘡(てんぽうそう)やエリテマトーデスが代表的で、主に顔や全身に症状が出ます。その患部に細菌感染が起こるとかゆみが強くなります。

犬のこんな症状、かゆがる様子が見られたらすぐ病院へ

犬のこんな症状、かゆがる様子が見られたらすぐ病院へ

―犬のかゆみを引き起こす病気として、どんなものがありますか? また、受診すべき症状について教えてください。

外耳炎

頭を振る、耳を手足でかく、頭を一方向に傾けているなどの様子が見られたら外耳炎を疑いましょう。このほか、耳が赤い、匂いが強い、耳垢がたくさん出る、耳を触るとクチャクチャと音がするなどの症状がしばしば起こります。

細菌が原因の外耳炎は、黄色っぽい耳垢が出て、悪化するとドロッとした耳だれが出ます。マラセチアが原因の場合は、チョコレート色の耳垢が出て発酵臭がします。

犬が耳を気にして、軽くかく程度であれば様子を見てもいいのですが、次のような症状が見られる場合は、緊急性が高いと言えるでしょう。

  • 耳が赤くなり血が出ている
  • 耳の周りの毛が抜ける
  • 耳を触ろうとするとよける、怒る

犬の外耳炎の詳しい原因、症状、治療、予防については、獣医師監修の「犬の外耳炎」を併せてご覧ください。

アレルギー性皮膚炎

アレルギー性皮膚炎は、皮膚の特定の部位をかき、皮膚が赤くなり脱毛を伴います。犬がかいたり、なめたりする場所は徐々に黒くなり、皮膚が硬くなってしまうことがあります。

犬にノミがいる場合は、ノミの唾液に対してアレルギーを起こし、激しいかゆみと大きめの発疹や脱毛が特徴です。

一日に数回かく程度であれば様子を見てもいいでしょう。しかし、同じ場所を頻繁にかく、皮膚が赤くなる、脱毛している場合は、できるだけ早く受診しましょう。

犬のアレルギー性皮膚炎の詳しい原因、症状、治療、予防については、獣医師監修の「犬のアレルギー性皮膚炎」を併せてご覧ください。

アトピー性皮膚炎

アトピー性皮膚炎は、遺伝的にアレルギー反応を起こしやすい体質をもつ犬に起こります。見た目だけではアレルギー性皮膚炎と区別しにくいですが、発症年齢が低く、耳、目の周り、口の周りをかゆがる、指の周りをなめるなどの行動が初期症状としてよく見られます。

犬のアトピー性皮膚炎の詳しい原因、症状、治療、予防については、獣医師監修の「犬のアトピー性皮膚炎」を併せてご覧ください。

膿皮症

膿皮症は、皮膚の常在菌であるブドウ球菌が急激に増えることによって発症し、中心に膿をもったような小さな発疹が多数できます。この発疹が破れると、ドーナツ状に皮膚がカサカサ(表皮小環)し、やがて黒い色素が集まり治ります。

膿皮症を起こしている部位が2、3か所程度であれば様子を見ていいですが、あっという間に広がることが多いので、できるだけ早く受診しましょう。

犬の膿皮症の詳しい原因、症状、治療、予防については、獣医師監修の「犬の脂漏性皮膚炎」を併せてご覧ください。

疥癬症

疥癬(かいせん)は、ヒゼンダニの寄生による皮膚感染症で、非常にかゆみが強いため、犬がかきむしってしまい、出血や脱毛を伴います。また、耳の先端や肘や膝、内股や腹部に発症することが多く、フケや赤い発疹が出ます。

治療が遅れると全身に広がり、治癒まで数ヶ月かかることがあります。犬にフケや赤い発疹があり、かゆがり方がひどいと感じたら早めに動物病院で診察を受けましょう。

なお、疥癬は人やほかの動物にも感染します。特に、子供や高齢者に感染しやすいので注意が必要です。

マラセチア性皮膚炎

マラセチアは皮膚の常在菌ですが、皮膚の抵抗力が低下した際に一気に増加すると、かゆみの原因になります。脇や内股に多く発生し、かゆみが強く皮膚が赤くなり、かきむしると脱毛を伴います。また、独特の発酵臭があり、黄色いベタベタしたワックス状の分泌物が皮膚に付着するのも特徴です。

皮膚が赤く、ベタつきと発酵臭がすると感じたら早めに受診しましょう。

犬のマラセチア性皮膚炎の詳しい原因、症状、治療、予防については、獣医師監修の「犬のマラセチア皮膚炎」を併せてご覧ください。

皮膚糸状菌症

犬が皮膚糸状菌に感染すると広い範囲で急に脱毛が起こります。脱毛部位にはフケを伴うことが多く、脱毛部と発毛部の境目はリング状に発赤(ほっせき:充血して赤くなること)しているのが特徴ですが、見た目ほどかゆみは強くありません。

しかし、細菌が同時に感染するとかゆみがひどくなり、かいたりなめたりすることで感染を広げてしまいます。

急激に広い範囲で脱毛が起こった場合は、必ず動物病院を受診しましょう。

また、糸状菌の中には人に感染する場合がありますので、手洗いをしっかり行ってください。

甲状腺機能低下症

甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンの分泌が低下し、左右対称性の脱毛や尾の脱毛(ラットテイル)、皮膚の色素沈着が起こる病気です。一般的にかゆみは伴いませんが、細菌感染が起こるとかゆみが出ることがあります。

甲状腺機能低下症のより詳しい原因、症状、予防については獣医師監修の「犬の甲状腺機能低下症」を併せてご覧ください。

「PS保険」では、24時間365日、獣医師による無料※電話相談サービス「獣医師ダイヤル」を提供しております。病院へ足を運ぶまでの応急処置を含む医療相談から、素朴な疑問まで幅広く応対してくれるので、もしものときも安心です。

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※当サービスは、株式会社チェリッシュライフジャパン(CLJ)と提携し、アニクリ24のサービスを提供するものです。

※Anicli24(アニクリ24)は獣医師による電話医療相談サービスを提供する動物病院です。

犬の皮膚炎の診断方法

―診断方法について教えてください。

皮膚の主な診断方法は次の4つです。

1.皮膚検査

  • セロハンテープ検査
    セロハンテープを皮膚の表面に貼り付けて、皮膚の表面にいる細菌やマラセチアを顕微鏡で確認します。
  • 抜毛検査
    かゆみのある部位の被毛を抜き、寄生虫や真菌感染の有無を確認します。
  • 掻爬(そうは)検査
    病変部の皮膚をかき取って疥癬やアカラスなど皮膚に寄生する寄生虫の検出を行います。

2.アレルギー検査

アレルギー検査は血液で行い、食物、花粉やカビ、ダニなど環境中のもの対してアレルギーを持っていないかを調べます。

3.細菌同定・感受性テスト

抗生剤を投与しているのに症状が改善しない場合は、皮膚炎の原因になる細菌の種類と効果のある抗生剤を調べます。

4.ファンガセイ

皮膚糸状菌の有無を調べます。

かゆみが起きやすい犬種

かゆみが起きやすい犬種

―かゆみが起きやすい犬種はありますか?

かゆみが起こりやすい犬種としてつぎのものが挙げられます。

また、子犬や老犬に「疥癬症」が起こりやすく、そのほかの皮膚病は年齢を問わず起こりやすいと言えます。

皮膚病のより詳しい原因、症状、予防については獣医師監修の「犬の皮膚病」を併せてご覧ください。

犬のかゆみの治療法

犬のかゆみの治療法

―犬のかゆみはどのように治療するのですか?

換毛期

原因となる細菌の繁殖を抑えるために、スリッカーでムダ毛を除去し、シャンプーします。

ノミやダニ・カなどの虫さされ

ノミやダニ対策として定期的に予防薬を投与します。蚊の予防は難しいので、虫よけスプレーを利用するといいでしょう。

アレルギーやアトピー

アレルギー検査でアレルゲン(アレルギーの原因物質)を確認します。

食物にアレルギー反応を起こしている場合は、アレルゲンの入っていないドッグフードを選択します。しかし、フードを変更しても、かゆみはしばらく続きますので、落ち着くまでは内服薬を併用します。

花粉、ダニ、ハウスダストなど環境中のものがアレルゲンの場合は、できるだけ接触しないようにします。かゆみが激しい場合は、ステロイド、免疫抑制剤などのかゆみ止めの薬を併用します。また、体に付着したアレルゲンを取り除くためにシャンプーを定期的に行います。

ストレス

犬にとって、寒さや暑さ、運動不足、痛みなどがストレスになります。過ごしやすい環境に改善し、適度な運動を行いましょう。

外耳炎

耳の汚れを取り除き、外耳炎の原因に合わせて点耳薬を耳に入れます。耳の掃除は、力を入れずに軽く行うのがコツです。症状がひどい場合は注射や内服薬を投与します。

細菌、マラセチア、糸状菌の感染

細菌感染の治療は抗生剤の投与で行います。かゆみがある場合は抗ヒスタミン薬やステロイドなどを併用します。また、抗菌作用のあるシャンプーを定期的に行います。

マラセチアと糸状菌の治療も同様ですが、抗真菌薬や専用のシャンプー、外用薬を併用することがあります。

寄生虫

疥癬のような寄生虫は駆虫薬を投与します。

自己免疫疾患

自己免疫性疾患の治療は、ステロイドや免疫抑制剤を投与します。なお、再発することがあるので継続的な治療が必要になることがあります。

犬のかゆみに対するご家庭での対処と予防法

犬のかゆみに対するご家庭での対処と予防法

受診前の準備

―受診に際し、記録やメモなど飼い主が用意したほうがいいことはありますか?

次のようなことを記録しておくと、診断や治療の助けになります。

  • いつからかゆがり始めたのか?
  • 最初にどこをかゆがり始めたのか、今はどこが一番かゆいのか?
  • 現在のドッグフードの名前やメーカー
  • ノミとダニの予防薬の種類と塗布日
  • 今まで薬で副反応が出たことがあるか
  • 投与している薬
  • 使用中のシャンプー など

治療中の食事について

―治療中の食事は、どのようにしたらいいですか?

アレルギーが疑われる場合は、検査結果を参考に選びます。特に、食物に対してアレルギーがない場合は一般食で構いませんが、皮膚にいいオメガ脂肪酸が含まれているフードに変更するといいでしょう。

犬のかゆみの予防法

―予防法や日ごろから気を付けたい事柄を教えてください。

ブラッシング

ブラッシングは静電気が起きにくいブタ毛のものをお勧めしますが、換毛期は抜毛がしっかり取れるものを選び、皮膚をこすりすぎないようにブラッシングしましょう。

シャンプーとドライヤー

かゆみがひどいときには、必ず動物用のシャンプーを用い、ぬるめのお湯でアレルゲンや細菌などを洗い流してください。その際、絶対にこすったり、ゴシゴシと強く洗ったりしないことが大切です。また、泡はあらかじめ立てておき、皮膚の上に直接シャンプーをかけて泡立てないようにしましょう。

乾かすときはタオルドライをしっかり行い、ドライヤーは低温で離して乾かしましょう。皮膚の血行が良くなりすぎるとかゆみがひどくなるからです。

アレルギー対策

ノミやダニもアレルギーの原因になりますので、犬に予防薬を付け、ノミアレルギーを予防することが大切です。また、同じものを食べ続けると同じタンパク質にさらされます。タンパク質はアレルゲンとなりやすい食品成分ですので、フードをローテーションするといいでしょう。

アレルギーは、多くが眼・耳・口・指のかゆみとして現れます。少しでも症状があれば、様子を見ないで早めに受診すると、症状を悪化させず、また予防につながります。

まとめ

かゆみという症状はひとつですが、原因はたくさんあります。犬が少しでもかゆがり始めたら早めに受診し、初期症状のうちに治療を開始するようにしましょう。ドッグフードを変えるときは、フードの名前を覚えて、原材料を見比べておくと、かゆみの原因に気付く場合があります。

また、処方された内服薬は最後まで飲み切りましょう。かゆみが治まったからといって途中でやめてしまったり投与回数を変えたりすると耐性菌が出現しやすくなります。

かゆみの治療は長丁場になることが多いので、獣医師とコミュニケーションをとりながら進めましょう。

そのほか気になる犬の体や行動の異常・変化については、獣医師監修の「犬の症状」を併せてご覧ください。

獣医師 平松育子

執筆者:平松 育子

獣医師。『ふくふく動物病院』院長。京都市生まれ。山口大学農学部獣医学科(現 山口大学共同獣医学部)卒業。山口県内の複数の動物病院勤務を経て、2006年、山口市阿知須にて『ふくふく動物病院』を開業。

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