犬アトピー性皮膚炎
目次
- 犬アトピー性皮膚炎ってどんな病気?
- どうして症状が出るの? 原因は?
- どんな犬がアトピー性皮膚炎にかかりやすいの?
- 犬アトピー性皮膚炎の特徴とチェック項目
- 犬アトピー性皮膚炎の治療にはどんな方法があるの?
- どうやって予防したらいいの?
犬アトピー性皮膚炎ってどんな病気?
犬アトピー性皮膚炎は、アレルギー性の皮膚疾患の中で最も一般的な病気であり、10頭に1頭がかかると言われています。
犬アトピー性皮膚炎の定義と症状
2005年に国際会議で「犬アトピー性皮膚炎とは、花粉やダニのIgEが関連した、特徴的な症状とかゆみを伴う皮膚炎である」と定義されました。かゆがっている犬がいたとして、その子が犬アトピー性皮膚炎かどうかを診断するには、まず定義にあるように、特徴的な症状があるかどうかを確認します。
※IgE(immunoglobulin E:免疫グロブリンE)とは、体内に入ってきたアレルギー物質に対して働きかけ、体を守る抗体のひとつ
特徴的な症状というのは、脇の下、太ももの内側、足の曲がる部分でのかゆみを伴う慢性の皮膚炎です。こういった症状があり、なおかつ花粉やダニ、カビ胞子のような環境アレルゲンに対するIgEが検出されることで、犬アトピー性皮膚炎だと診断されるのです。
そのため、環境アレルゲンに対するIgEは検出されず、食べ物に対するIgEが検出された場合は、犬アトピー性皮膚炎ではなく食物アレルギーのIgEタイプであると診断します。
この定義のポイントは、IgEが関連しているという部分です。つまり、花粉やダニなどのアレルゲンが飛ぶ季節になると症状が出たり悪化したりするというように、症状の季節性が見られる病気だということを意味しています。
ちなみに、アトピーとは「IgEができやすい体質」のことです。

どうして症状が出るの?原因は?
皮膚のバリア機能障害
病気のメカニズムを非常に簡略化すると、「アレルゲンが体内に侵入して、それに対して免疫反応が起こり、IgEが産生され、その結果として炎症反応を引き起こす」ということになります。
つまり、体内にアレルゲンの侵入を許してしまうような、皮膚のバリア機能障害が起きているということが最初の原因です。
アレルゲンとの接触
皮膚の表層部分には、細胞の間を埋めるように細胞間脂質が存在しており、水分の蒸発を防いで保湿をし、アレルゲンの侵入を防いでいます。
これが皮膚の乾燥や皮膚炎などによって皮膚が荒れた状態になると、細胞間脂質が不足して皮膚に隙間ができたような状態になってしまいます。隙間があると、そこから水分が過剰に蒸発して肌は乾燥します。また、その隙間を通って外界からアレルゲンが侵入してしまい、そのアレルゲンに対してIgEが産生されて、炎症反応が引き起こされるのです。
このような皮膚のバリア機能障害には遺伝的な関与があると考えられています。
微生物の定着・増殖
上記ふたつに加えて、皮膚の常在菌であるブドウ球菌やマラセチアが定着・増殖することで、犬アトピー性皮膚炎の症状は悪化します。
まとめると、犬アトピー性皮膚炎の症状が出る原因は、「皮膚のバリア機能障害」「アレルゲンとの接触」「微生物の定着・増殖」です。
どんな犬が犬アトピー性皮膚炎にかかりやすいの?
遺伝的な影響が考えられており、日本では次のような犬種が好発犬種として知られています。
- ウェスト・ハイランド・ホワイト・テリア
- 柴犬
- トイ・プードル
- ダルメシアン
- パグ
- ブルドッグ
- ミニチュアダックスフンド
- ラブラドール・レトリバー など
犬アトピー性皮膚炎の特徴とチェック項目
- 最初に症状が出たのが3歳以下である
- 基本的に室内飼育である
- ステロイドを使うとかゆみがおさまる
- マラセチアによる皮膚炎を繰り返す
- 前足に症状がある
- 耳(耳介)に症状がある
- 耳の縁には症状がない
- 体の中心の背中側には症状がない
これらは犬アトピー性皮膚炎の診断基準です。繰り返しかゆみの出る皮膚炎が見られる場合、また、これらが多く当てはまるほど、犬アトピー性皮膚炎である可能性は高くなります。ただし100%ではないことに注意が必要です。
犬アトピー性皮膚炎はどうやって診断されるの?
ほかにかゆみを引き起こすような皮膚疾患を除外していくことから始めます。
最初は、感染性皮膚炎の除外です。皮膚の観察や顕微鏡の検査で病原体が見つかった場合は、それを治療します。次に、食物アレルギーの除外です。どちらも同じアレルギー性皮膚炎であり、かゆみが出る場所もほとんど共通しているため、見た目だけでは両者を区別できないことがほとんどです。
さらに、犬アトピー性皮膚炎と食物アレルギーの両方を持っている犬も多いとされています。食物アレルギーは、アレルゲンにならない食材のフードを与えて、かゆみがなくなるかを調べる除去食試験や、血液中のIgEやリンパ球反応を測定するアレルギー検査によって診断します。
これらを除外できて、なおかつ、かゆみが続くようであれば、いよいよ犬アトピー性皮膚炎である可能性が高くなります。
最後は、IgEを測定するアレルギー検査を行い、アレルゲンを特定することで診断となります。

犬アトピー性皮膚炎の治療にはどんな方法があるの?
悪循環を断つ
アレルゲンの侵入、皮膚のバリア機能障害、炎症が起こる、悪化因子による炎症の悪化という流れで悪循環が成立していくのが、犬アトピー性皮膚炎の特徴です。
そのため、この悪循環を断つことが目的になります。つまり、対処として「アレルゲンを回避する」「皮膚をケアする」「かゆみや炎症を抑える」「微生物の定着・増殖をコントロールする」という4つが治療につながるのです。
アレルゲンを回避する方法
室内のアレルゲンに対してはこまめに換気する、フローリングにする、空気清浄機を設置するなどがあります。室外のアレルゲンに対しては、アレルゲンが出る季節には散歩を止める、または短くする、こまめにブラッシングをするなどがあります。
皮膚のケア
シャンプーによって体の表面についたアレルゲンを除去して保湿をします。
かゆみや炎症を抑える
以前はステロイドの使用が必要でしたが、最近はステロイドよりも副作用が少なくてかゆみを抑えられる薬があり、そちらを使用することが多くなっています。
微生物の定着・増殖を抑える
抗生物質や抗真菌薬を使います。
そのほかの治療法としては減感作療法があります。これはアレルゲンを少しずつ体内に入れることで徐々に体を慣れさせて、アレルギー反応を起こさないようにする治療です。
犬アトピー性皮膚炎は治せるの?
完治させることは難しく、ほとんどのケースで一生付き合っていくことになります。 唯一完治する可能性があるのは減感作療法ですが、確実ではありません。
どうやって予防したらいいの?
アレルゲンとの接触を避けることが予防になりますが、何がアレルゲンになるかは個体によって違います。そのため、確実に予防することは難しいと言えます。
そのほか気になる犬の皮膚の病気については、獣医師監修の「犬の皮膚・アレルギーの病気」をご覧ください。
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記事監修:ペットメディカルサポート株式会社
動物病院での実務経験をもつベテラン獣医師および動物看護師が多数在籍するペット保険の少額短期保険会社。スタッフ全員が動物好きなのはもちろんのこと、犬や猫といったペットを飼っている者も多いので、飼い主様と同じ目線に立ったサポートに取り組んでいます。