犬の甲状腺機能低下症の症状と原因、治療法について

最終更新日:2024年07月09日

本コンテンツは獣医師2名による確認を行い、制作をしております。

犬の甲状腺機能低下症ってどんな病気?

犬の甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンが出なくなることにより起こる病気です。人間にも同じような病気があり、「橋本病」と呼ばれています。

犬の甲状腺機能低下症の原因と症状

どうして症状が出るの?原因は?

甲状腺の仕組み

甲状腺は喉に近い気管の外側にひとつずつ付いています。甲状腺には、濾胞(ろほう)と呼ばれる甲状腺細胞が一列で並んでできている袋状のものがあります。この濾胞に甲状腺細胞が作った甲状腺ホルモンをためておき、必要に応じて血液の中に放出しているのです。

甲状腺ホルモンの仕組みと機能

甲状腺は、サイロキシンとトリヨードサイロニンというふたつのホルモンを作っています。これらのホルモンは、チロシンというアミノ酸とヨードから合成されていて、食べ物から取ったヨードのほとんどは、これらふたつの甲状腺ホルモンの材料になります。

甲状腺ホルモンは、甲状腺が勝手に分泌しているわけではありません。脳の中の視床下部と呼ばれる部分が、体の状態を把握して脳下垂体に命令を出し、脳下垂体の前葉から、甲状腺刺激ホルモンというホルモンが分泌されています。この甲状腺刺激ホルモンの刺激によって、甲状腺は甲状腺ホルモンを作り、分泌しています。

血液中の甲状腺ホルモンの量はコントロールされており、少なくなると甲状腺刺激ホルモンの分泌量が多くなり、たくさんの甲状腺ホルモンが分泌されるようになります。逆に、甲状腺ホルモンが多くなりすぎると、甲状腺刺激ホルモンの分泌が少なくなり、甲状腺ホルモンも減少するのです。

甲状腺ホルモンは体内でさまざまな働きをします。具体的には、体中の組織で酸素の消費量を増やし、熱を作り出します。また、小腸の糖分吸収量を増加させ、糖質・脂質をエネルギーに変える働きをしているのです。さらに、神経や心臓・血管の働きを活発に(血圧上昇、心拍数増加)しています。

甲状腺機能低下症の原因

自然発症の甲状腺機能低下症のほとんどは、甲状腺自体の異常(これを一次性と呼びます)で甲状腺ホルモンが分泌されない、一次性甲状腺機能低下症です。一次性甲状腺機能低下症は、自己免疫疾患の可能性が疑われている「リンパ球性甲状腺炎」と原因不明の「特発性甲状腺萎縮」により起こります。

このほか、脳下垂体に原因のある二次性甲状腺機能低下症、脳の視床下部に原因のある三次性甲状腺機能低下症もありますが、犬の場合は、まれです。

どんな犬が甲状腺機能低下症にかかりやすいの?

自然発症の甲状腺機能低下症は、一般的に中年齢~高齢(6歳齢)の犬で多く見られます。犬種としては次のようなものが挙げられ、他犬種と比較して若年で発症する傾向にあります。

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犬の甲状腺機能低下症の症状とチェック項目

犬の甲状腺機能低下症では、甲状腺ホルモンが欠乏することにより、次のような症状が現れます。

  • 最近元気がない(活動低下)
  • 皮膚の細菌感染症を繰り返す
  • 脱毛
  • 特に食事を替えていないのに、体重がどんどん増える(肥満)
  • 脈が遅くなる(徐脈)

また、頻度は低いですが、顔面神経麻痺や前庭障害などの末梢神経障害、寒さに弱くなるといった症状が出ます。このほか、ごくまれに虚脱(極度の脱力状態に陥ること)や低体温、昏睡を起こす粘液水腫性昏睡が発生することもあります。

犬の甲状腺機能低下症はどうやって診断されるの?

高コレステロール血症と高脂血症の異常

上述の甲状腺機能低下症に特徴的な症状が認められた場合、血液検査を行います。血液検査でよく認められる異常は、高コレステロール血症と高脂血症>で、しばしば重度で見られます。

サイロキシンと遊離サイロキシンの血中濃度

甲状腺ホルモンの血液検査として、サイロキシン(T4)、遊離サイロキシン(fT4)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)の血中濃度を測定します。甲状腺機能低下症では、T4およびfT4が計れる限界以下の値になることが多いようです。

甲状腺刺激ホルモンの増加

また、一次性甲状腺機能低下症では、甲状腺ホルモンが少ないため、脳下垂体が過剰に甲状腺刺激ホルモンを分泌します。そのため、同ホルモンの増加が多く見られます。

甲状腺機能低下症の診断で気を付けたいユウサイロイドシック症候群

なお、注意しなければならないのは、ユウサイロイドシック症候群(偽甲状腺機能低下症)です。甲状腺ホルモンの量は、体調や薬剤により減少することがあり、併発疾患によって甲状腺機能低下症と誤って診断してしまうことがあります。そのため、その疑いがある場合には確定診断を急がないほうがいいでしょう。

犬の甲状腺機能低下症の治療と予防

犬の甲状腺機能低下症の治療にはどんな方法があるの?

ホルモン補充療法

甲状腺機能低下症は、甲状腺から甲状腺ホルモンが分泌されないことで起こる病気なので、「ホルモン補充療法」という治療を行います。具体的には、レボチロキシンナトリウムという甲状腺ホルモンを人工的に合成した薬剤を使用します。

犬の甲状腺機能低下症は治せるの?

低下した甲状腺の機能が回復することはないので、生涯に渡り前述したレボチロキシンナトリウム製剤の投与が必要です。動物用の製剤もありますが、人間用のレボチロキシンナトリウム製剤を用いることもあります。

治療開始後には、甲状腺ホルモンの濃度としてT4の測定を行う必要があります。体内のT4濃度は、レボチロキシンナトリウム製剤を投与し、それが体の中にまんべんなく広がる4~6時間後に採血をして検査を行います。

治療開始6~8週間後や治療による症状の改善が乏しい場合、あるいはレボチロキシンナトリウム製剤の副作用が出ている場合には検査を行った方がいいでしょう。そして、症状改善の有無と血液中のレボチロキシンナトリウムの量により投薬量を調整します。

なお、改善が見られる治療期間は症状により異なります。活動性低下の場合は、多くが1週間以内に改善が見られます。しかし、高脂血症の改善は数週間かかります。また、脱毛を始めとする皮膚症状や末梢神経症状の改善には、多くが数か月を要します。特に、皮膚については気長に反応を待ったほうがいいでしょう。

どうやって予防したらいいの? あるいは症状を緩和するにはどうしたらいいの?

残念ながら甲状腺機能低下症を予防する方法はありません。しかし、甲状腺ホルモンはヨードによって作られており、甲状腺ホルモンの欠乏を予防するためには食べ物から摂取する必要があります。

あえてヨードが含まれる食べ物を犬に与える必要はありませんが、少なくとも偏った栄養価の食餌にならないよう、「総合栄養食」というバランスの良い栄養価のフードを与えるといった工夫が必要だと考えられます。

犬の一次性甲状腺機能低下症は、適切に診断、治療されれば、症状は軽減・消失し、元気になります。

そのほか気になる犬の内分泌系の病気については、獣医師監修の「犬の疾患 内分泌系の病気」をご覧ください。

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