犬の肥満細胞腫の症状と原因、治療法について

最終更新日:2024年07月08日

本コンテンツは獣医師2名による確認を行い、制作をしております。

犬の肥満細胞腫ってどんな病気?

肥満細胞が腫瘍化して増殖する疾患

肥満細胞腫は、犬の皮膚にできる悪性腫瘍の中で最も多い腫瘍であり、体の中にある肥満細胞という細胞が腫瘍化して、どんどん増殖してしまう疾患です。この病気が発症すると、皮膚や皮膚の下にしこりができたり、リンパ節、肝臓、脾臓といったほかの臓器に転移したりします。また、皮膚以外にも、口の中、筋肉の間、内臓に原発する(最初に発症する)肥満細胞腫もあります。

犬の肥満細胞腫の原因と症状

肥満細胞腫の悪性度を示すグレード

肥満細胞腫の悪性度は、従来3つのグレードに分類されてきました。グレード1が最も悪性度が低く、グレード3が最も悪性度が高くなります。

グレード1

グレード1は、犬の皮膚表面にできる1cm以下のしこりが大半です。転移や再発を起こしにくく、外科手術のみで完治が見込めます。

グレード2

グレード2は、転移を起こす可能性があり、再発しやすいタイプです。手術で完治する場合もあれば、ほかの治療を組み合わせても再発や転移が進行する場合もあります。

グレード3

グレード3は転移しやすく、再発も非常に起こりやすいタイプです。外科手術と抗がん剤治療を組み合わせ、状況により放射線治療も行いますが、それでも多くの場合、完治が難しいグレードと言えます。

最近では、細胞の形から2段階に分類する方法が普及していますが、どちらが優れているのかは議論が分かれるところです。

どうして症状が出るの?原因は?

肥満細胞腫になるとヒスタミンが過剰に放出され、周囲に炎症を引き起こす

肥満細胞腫には、肥満という名前が付いていますが、犬の体格にはまったく関係ありません。

肥満細胞は、炎症やアレルギーなど免疫に関係している細胞です。肥満細胞の内部には、炎症を起こすヒスタミンという物質がたくさん含まれています。肥満細胞腫になるとヒスタミンが過剰に放出され、周囲に炎症が起こります。例えば、それが胃で起こると胃潰瘍になるのです。

犬のしこりが肥満細胞腫の場合、しこりに触れると急に腫れ、腫瘍から急激にヒスタミンが放出されるとショック状態に陥ることがあります。

どんな犬が肥満細胞腫にかかりやすいの?

パグは特に注意が必要な犬種で、肥満細胞腫の発症率が、ほかの犬種に比べて2~2.5倍も多いとされています。また、パグが肥満細胞腫を発症すると、しこりが数多く発生(多発性)します。しかしながら、その多くは悪性度が低いというデータがあります。

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犬の肥満細胞腫の症状とチェック項目

初期段階では特徴的な症状が見えづらい

犬の皮膚にできる肥満細胞腫は、色や形にかなりのバリエーションがあり、特徴がないことが特徴だと言えるくらいです。ある程度、病気が進行して腫瘍が大きくなれば、「悪性腫瘍っぽい」見た目になりますが、初期では皮膚炎のように赤くなることがあったり、イボのようになったり、脂肪の塊のようになることもあります。そのため、「やわらかいから脂肪の塊だろう」と楽観的に考えていると、あっという間に大きくなって体の中で転移しているということもありえるのです。

できものが変化、吐き気や下痢が見られたら肥満脂肪腫の可能性

犬にできものがあって、触っていたら急に大きくなった、真っ赤になったなどの変化があり、また、同じくらいのタイミングで吐き気や下痢のような消化器症状も出るようだと、肥満細胞腫の可能性が高くなります。

犬の肥満細胞腫はどうやって診断されるの?

見た目では肥満細胞腫かどうかの判断ができないため、犬のしこりに針を刺して細胞を吸引して診断します(針吸引検査)。この検査は痛みがほとんどないため、麻酔をかけずに実施できます。

一方、針吸引検査によって肥満細胞腫かどうかはわかりますが、悪性度や転移についてはわかりません。そのため、肥満細胞腫の場合は、リンパ節、肝臓、脾臓といった臓器の針吸引検査や骨髄検査、また、手術で腫瘍を摘出して、それを病理組織学的検査し、より細かい腫瘍の情報を調べます。

犬の肥満細胞腫の治療にはどんな方法があるの?

治療には、外科手術、放射線治療、内科治療があり、悪性度や犬の状態によってどれを行うか、どれとどれを組み合わせるかを考えます。

犬の肥満細胞腫の治療と症状の緩和

外科手術

外科手術は、犬に全身麻酔をかけて肥満細胞腫のしこりを摘出します。これは、転移を起こしていなければ、完治が期待できる治療法です。

ただし、グレード2とグレード3では、肉眼で確認できないレベルでの腫瘍細胞の広がりがあるかもしれないため、腫瘍の周りの正常に見える組織までしっかり切除する必要があります。

手術後の病理組織学的検査で、外科切除が不十分という診断が出た場合は、再手術で拡大切除、あるいは放射線治療や化学療法を行います。

放射線治療

放射線治療は、基本的に外科手術と組み合わせて行う治療法です。外科手術を行ったものの、目に見えないレベルで腫瘍の取り残しがあり、再手術を行うのが難しい場合に有効な治療法と言えます。

しかし、腫瘍細胞が多すぎると放射線を照射しても生き残る腫瘍細胞が多いため、放射線治療だけで完治させるのは困難です。そのため、手術はできないけど、少しでも腫瘍を小さくしたい、短い期間だけでも腫瘍の成長を止めたいという場合に、放射線治療だけを行うことがあります。

内科治療

内科治療は、腫瘍が全身に転移している場合や、悪性度が高く転移や再発が疑われる場合に用いられる治療法です。外科手術と放射線治療が局所治療であるのに対し、内科治療は全身治療という違いがあります。

肥満細胞腫の内科治療で用いる薬剤は、主にステロイド、抗がん剤、分子標的薬です。

ステロイド

ステロイドは、抗炎症作用、抗アレルギー作用のある薬剤であり、肥満細胞の増殖やヒスタミンの放出を抑制する効果があるため、肥満細胞腫の治療薬としてしばしば使われます。しかし、単独で十分な効果を発揮することが難しいので、ほかの薬剤と一緒に用いられます。

抗がん剤

抗がん剤は一定の間隔で「動物病院にて投与」します。それは、副作用のリスクがあり、抗がん剤治療中は、犬の状態をこまめにチェックしなければならないからです。

分子標的薬

副作用が懸念される抗がん剤治療に対し、注目されているのが動物医療では比較的新しい分子標的薬という治療法です。この薬剤は、一般的な抗がん剤とは違い、腫瘍にピンポイントで作用します。その分、効果の有無がはっきりしており、また、「自宅で投与できる」というメリットがあります。

犬の肥満細胞腫は治せるの?

グレード1であれば完治が見込めます。グレード2はグレード1に近いものであれば、完治できるものもあります。しかし、グレード2の中でも悪性度の高いタイプや、グレード3の場合、完治は困難です。また、グレードにかかわらず転移していると、完治は難しくなります。

症状を緩和するにはどうしたらいいの?

犬の肥満細胞腫は、ほかの悪性腫瘍と同様、発見が遅れると転移してしまい、命にかかわる状態になります。そのため、犬の皮膚のしこりを見つけたら、できるだけ早く針吸引検査を行い、診断を出すことが大事です。

また、肥満細胞腫は見た目や触った感じによって診断できないため、放置せずにきちんと動物病院を受診しましょう。

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記事監修:ペットメディカルサポート株式会社

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