犬の悪性腫瘍(がん)の症状と原因、治療法について

犬の悪性腫瘍(がん)ってどんな病気?

腫瘍とは「本来自己の体内に存在する細胞が、自律的に無目的にかつ過剰に増殖する状態」と定義されます。

動物の体を構成する細胞は、正常な構造を維持、あるいは欠損した部分を補うために増殖しています。この増殖は適切な細胞数を保つ機構が存在するのできちんと制御されており、必要に応じて増殖が促進されたり、抑制されたりしています。

しかし、腫瘍ができると、この過程が障害され、本来の制御とは無関係に増殖し、抑制されなくなります。

腫瘍は、その形態、および動態によって良性腫瘍と悪性腫瘍に分類されます。悪性腫瘍は良性腫瘍とは違い、増殖速度が速く、周りに入り込むようにして成長する「浸潤性」が強いという特徴があります。また、再発しやすく、転移が多く見られます。

浸潤:細胞が周囲の組織を破壊しながら、広がっていくこと

犬の悪性腫瘍(がん)の症状と原因

どうして症状が出るの?原因は?

悪性腫瘍(がん)の症状

一般的に悪性腫瘍にともなって出てくる症状は、主なものとして、がん性疼痛、がん性悪液質が見られます。このほかにも特定の腫瘍に生じる症状があります(腫瘍随伴性症候群)。

がん性疼痛

がん性疼痛とは、がんによる痛みのことです。悪性腫瘍による痛みの原因は、がん細胞が増殖することで浸潤する、あるいは押し広げることにより直接神経を刺激することで生じるものと、悪性腫瘍による炎症や骨折による二次的なものがあります。

悪性腫瘍の進行により程度を増しつつ持続するため、動物にとって苦痛の程度が大きくなります。そして、がん性疼痛の動物への影響は生活の質を低下させ、免疫力を抑制し、生存期間を短縮させるなどさまざまな悪影響を及ぼします。

がん性悪液質

悪性腫瘍では栄養失調によって衰弱状態が生じます。この状態を「がん性悪液質」と呼びます。がん性悪液質から、食欲不振、体重減少、疲労、免疫力の低下などのさまざまな症状が起こります。

がん性悪液質は、口腔内腫瘍や消化管腫瘍などにより栄養摂取や吸収ができない場合、食欲不振や腸管の消化吸収機能が低下する場合などの機能的な原因でも見られます。

また、糖分は悪性腫瘍が最も好むエネルギー源です。正常な細胞では糖分は好気的解糖(酸素を利用して糖を分解して、エネルギーを作り出すこと)により効率的にエネルギーを作り出しますが、悪性腫瘍では酸素を用いない嫌気的解糖によりエネルギーを作り出すため、この糖分を効率良く使用することができません。

そのため、十分な栄養を摂取しているにもかかわらず、悪性腫瘍による代謝の変化とエネルギー消費の増加から体重の減少が起こることも原因です。

犬の悪性腫瘍の原因

悪性腫瘍の原因はざまざまで、はっきりすることはほとんどありません。しかしながら、発生に関係があるものとしては、以下のものが挙げられます。

遺伝的因子

特定の犬種で発生しやすい腫瘍があるため遺伝が関係あるのではないかと考えられています。

ホルモン

乳腺腫瘍(乳がん)は卵巣から分泌されるホルモンが発生に関与していることが分かっており、避妊手術により乳腺腫瘍の発生が減少することが知られています。また、雄の肛門周囲腺腫でもホルモンの影響が考えられています。

環境因子

受動喫煙がいくつかの腫瘍の発生に影響すると報告されています。そのほかにもアスベストと犬の中皮腫、スコティッシュ・テリアにおける膀胱移行上皮癌と除草剤との関連性が報告されています。

ワクチン

ワクチン接種部位での肉腫発生の危険性が報告されています。ワクチン接種を行う場合には、肉腫が発生したときに切除しやすい場所に接種する、同じ場所への複数回の接種は避けることが望ましいとされています。

どんな犬が悪性腫瘍(がん)にかかりやすいの?

高齢犬

犬の平均寿命は飼育方法の変化や獣医療の進歩などにより延長し、それに伴って腫瘍性疾患は増えています。つまり、悪性腫瘍は高齢犬での発生率が高いと言えます。

腫瘍の発生が比較的高い犬種

すべての犬種で悪性腫瘍は起きますが、日本では、ゴールデン・レトリバーラブラドール・レトリーバーシェットランド・シープドッグでの発生率が高いと報告されています。

また、ある特定の犬種で発生の多い腫瘍もあります。バーニーズ・マウンテン・ドッグ、フラットコーテッド・レトリバーでの悪性組織球症、パグでの肥満細胞腫などが知られています。

肥満細胞腫のより詳しい原因、症状、予防については獣医師監修の「犬の肥満細胞腫」を併せてご覧ください。

犬の保険について

犬の悪性腫瘍(がん)の症状とチェック項目

発生する部位やその種類によりさまざまな症状が現れます。以下のような特徴があると悪性腫瘍が疑われます。

  • 体にでき物があり、それがどんどん大きくなる
  • どこかが痛そうで、元気がない
  • 十分に栄養を接種しているのに痩せる

犬の悪性腫瘍(がん)はどうやって診断されるの?

悪性腫瘍の診断では、腫瘍の一部を入手する「生検」を行い、病理組織検査に利用します。こうした検査を行うことにより、腫瘍の種類が特定され、また、浸潤の程度や転移している可能性も分かります。レントゲン検査、超音波検査、CT検査、MRI検査で体内を観察することにより腫瘍の大きさ、浸潤性の程度、転移を確認することができます。

犬の悪性腫瘍(がん)の治療にはどんな方法があるの?

外科治療、化学治療(抗がん剤)、放射線治療が挙げられます。

外科治療

外科治療は、病変を即座に取り除くことができる治療で、病変が限局していれば根治治療が可能です。ただし、全身麻酔のリスクや、腫瘍の発生部位によっては外観の変化や機能が損なわれる可能性があります。

放射線治療

放射線治療は、放射線がもつ細胞障害作用を利用して、腫瘍を小さくすることを目的とする治療法です。外科治療とは異なり、機能や外観を損なうことなく、治療を行える方法です。

しかし、特別な設備が必要とされ、行える施設が限られています。適用にあたっては、治療対象の腫瘍の放射線感受性が高いこと、腫瘍が局所に限局していること、転移していないことが条件となります。ただし、頻回(回数が多いこと)に全身麻酔が必要であったり、治療費が高額であったり、放射線障害のリスクが高くなることがデメリットとして挙げられます。

化学療法

悪性腫瘍は発生部位からほかの部位に転移しますが、化学療法は、全身療法として転移を阻止、または遅延させることを目的として行われます。

しかし、化学療法で用いられる抗がん剤には副作用もあるため、それらをうまくコントロールする必要があります。

犬の悪性腫瘍(がん)の治療と予防

犬の悪性腫瘍(がん)は治せるの?

腫瘍に対する治療は目的によって、根治治療と緩和治療に分けることができます。

根治治療

根治治療とは、腫瘍の根絶を目的とした治療です。腫瘍が発生した部位に限局していて、転移がないこと、腫瘍の種類として浸潤性や転移性が低いこと、腫瘍の発生した部位が切除しやすい部位であること、などが根治治療を行える条件です。

緩和治療

緩和治療は、根治を目的とした治療が適応にならない、すべての腫瘍に対して適応になる治療です。つまり、すでに転移が確認されている、あるいは転移性が強く、転移を免れられないことが予測される腫瘍、完全切除が難しい腫瘍、重篤なそのほかの疾患を持っているために根治治療を行うことができない患者が適応となります。

どうやって予防したらいいの? 症状を緩和するにはどうしたらいいの?

悪性腫瘍の予防としては早期の避妊手術(乳腺腫瘍の予防)・去勢手術(精巣腫瘍・肛門周囲腺腫の予防)は挙げることができます。また、受動喫煙、アスベスト、除草剤への暴露を避けるようにすることは予防法と言えます。ただし、すべての悪性腫瘍を予防することは現在の獣医療では不可能です。

がんの発生が多い犬種だけではなく、すべての犬種で、小まめな健康診断を行い、がんの早期発見、早期治療に努めることが重要と言えるでしょう。

また、病気の予防のためにはワクチンは必須です。しかしながら、ワクチンの過剰摂取は避け、適切な頻度でのみ接種するように配慮すべきです。接種部位に関しても問題が起こった場合に対処しやすい部位にすることが重要です。

参考

  • 日本獣医がん学会監修 獣医腫瘍学テキスト 第1版
  • Schneider R., et al. Factors influencing canine mammary cancer development and postsurgical survival. J Natl Cancer Inst. 43(6): 1249-1261, 1969.
  • Reif JS, et al. Cancer of the nasal cavity and paranasal sinuses and exposure to environmental tabacco smoke in pet dogs. Am J Epidemiol. 147(5): 488-492, 1998.
  • Reif JS., et al. Passive smoking and canine lung cancer risk. Am J Epidemiol. 135(3): 234-239, 1992)

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