猫が生のエビを食べたときの症状と応急処置を獣医師が解説
最終更新日:2024年07月09日
生のエビは、猫が食べるとさまざまな症状を引き起こす危険なものです。愛猫が生のエビをなめてしまった、食べてしまった場合、どんな症状が起こり、どう対処すべきかを獣医師が詳しく解説します。
- 猫が生のエビを食べると引き起こされる症状
- 加熱処理したエビなら猫に与えても大丈夫
- 猫が生のエビをどのくらい食べると危険なのか
- 猫が生のエビを食べてしまったときの応急処置
- まとめ「猫に生のエビを食べさせてはいけない」
猫が生のエビを食べると引き起こされる症状
生のエビの成分「チアミナーゼ」が猫にビタミンB1欠乏症を引き起こす
―猫が生のエビを食べると、何が原因で、どんな病気を引き起こすのですか?
生のエビには「チアミナーゼ(アノイリナーゼ)」と呼ばれるチアミン分解酵素が多く含まれています。この酵素の働きにより、チアミン(ビタミンB1)が分解され、ビタミンB1欠乏症を引き起こします。
猫が生のエビを食べたかも!? こんな症状が見られたら病院へ
―生のエビによって猫にどんな症状が現れるのですか?
猫が生のエビを摂取して、すぐに症状が現れるわけではありません。しかし、継続的に摂取すると徐々にチアミン(ビタミンB1)が分解され、最終的にビタミンB1欠乏症となってしまいます。
ビタミンB1欠乏症には、以下のような初期症状が見られます。
- 食欲が落ちてくる
- よだれが増える
また、時間の経過とともに、次のような症状が現れてきます。
- 頭や首をお腹側へ曲げる(背骨が変形する)
- 痙攣(けいれん)発作
- 眼振(目が左右や上下、斜めに揺れること)
- 運動機能障害
- 不全麻痺
これらのような症状が猫に現れた場合には、欠乏しているチアミンを投与すれば症状は改善します。しかし、治療を行わないと48時間以内に死に至る場合があるため、早期の受診が必要です。
加熱処理したエビなら猫に与えても大丈夫
―加熱したエビの場合は、どうですか?
チアミナーゼは酵素であるため、熱を加えると失活(反応を起こさなくなること)します。このため、加熱処理を施したエビ(茹でたエビ、焼きエビなど)であれば猫は中毒症状を起こさず、与えても問題はありません。しかし、エビの殻や尻尾は硬く、消化不良を起こしやすいため、与える場合は、やわらかい身の部分だけにしてください。また、丸ごと与えるのではなく、ひと口大に切ってあげたほうがいいでしょう。
なお、エビせんのようなエビが含まれる菓子類も同様に、中毒症状を起こしません。ただ、菓子類には塩分や糖分が多く含まれているため、与えないでください。
―猫は、生エビによってアレルギーを起こす可能性はありますか?
はい。個体差はありますが、エビにアレルギーをもつ猫はいます。食物アレルギーの場合、嘔吐(おうと)や下痢といった消化器症状、湿疹やかゆみなどの皮膚症状、重篤な場合にはアナフィラキシーショックを起こすこともありますので、十分に注意してください。
猫が生のエビをどのくらい食べると危険なのか
猫が生のエビをなめた、少量を食べてしまったらどうなるの?
―愛猫が生のエビをなめたり、少量を食べてしまったりしたら、どうなってしまうのでしょうか? 様子を見ていても大丈夫ですか?
食べた量が少量だったり、なめたりした程度であれば、チアミナーゼによる中毒は起こりづらいでしょう。そのため、愛猫の様子が普段と変わりがないかを見てください。
しかし、アレルギーには注意する必要があります。アレルギー発症の摂取量には個体差があるため、いつもと様子が異なるのであれば、すぐに獣医師に相談しましょう。
猫にとって危険な生エビの摂取量
―猫はどのくらいの量の生エビを食べると具合が悪くなってしまうのでしょうか?
猫の生エビの摂取による中毒量は明確にはわかっていません。ただ、魚肉を生のままで連日(鯉やニシンを23から40日間)与え続けると、ビタミンB1欠乏症が生じたという報告があります。
猫の年齢や体重、摂取した量によっても中毒を示す境界は変わりますが、中長期的に摂取することで中毒につながると考えられます。
猫が生のエビを食べてしまったときの応急処置
家庭内ですべき応急処置や対処法
―猫が生のエビを食べてしまったら、家庭でどのように対処したらいいのでしょうか?
誤食がわかっているのであれば、動物病院に連絡してください。診療時間外であれば夜間救急に連絡をし、生のエビを誤食した旨を伝えましょう。自宅で吐き出させることは危険を伴うため行わないでください。
また、わかる場合は、「いつ」「何を」「どのくらいの量」食べてしまったのかをメモに書いておくといいでしょう。嘔吐や下痢があった場合には、ビニール袋に入れて持参してください。
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病院での対処法
―猫が生のエビを食べてしまったら、病院ではどのような処置をするのですか?
猫がエビのやわらかいところのみを誤食し、それらがまだ胃の中にある場合には催吐(読み:さいと。意味:胃の内容物を吐き出させること)処置を行います。しかし、殻や尻尾ごと食べてしまった場合には、吐き出させるときに食道を傷つけたり、場合によっては詰まらせたりしてしまう危険があるため、誤食の量によっては催吐処置を行わないこともあります。通常、催吐処置の後には、胃薬の投与や皮下補液を行います。
ビタミンB1欠乏症を発症している場合には、状態把握のため、さまざまな検査を行い、チアミンを投与して症状の改善を待ちます。状況によりますが、診療費として3万円程度をご用意ください。
※こちらの診療費は参考例です。平均や水準を示すものではありません。診療費は病院によって異なります。
まとめ「猫に生のエビを食べさせてはいけない」
チアミンは、炭水化物や脂質代謝にかかわっており、脳のエネルギー源であるブドウ糖の代謝にも必要なビタミンです。猫はチアミンを体の中で合成できないため、食餌から摂取する必要があります。一般的なキャットフードを主な食餌としている場合は、欠乏症の心配はほとんどないと思われます。
しかし、猫は、犬に比べチアミンの要求量が多く、欠乏すると急激な神経症状を起こしやすい生き物です。そのため、チアミン分解酵素を多く含む生のエビは基本的に与えないでください。
愛猫に食べさせていいかを迷ったり、何かを食べて具合が悪くなったかもしれないと思ったりしたら、獣医師監修の「猫が食べてはいけない危険な食べ物」「猫が食べても大丈夫なもの」を併せてご覧ください。
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執筆者:石川 愛美
日本獣医生命科学大学を卒業後、都内動物病院にて臨床獣医師として勤務。「予防獣医療」をもっと身近にすることを目指し、2019年に往診を専門とする動物病院「Animal Care Clinic TOKYO」を開設。
当たり前に存在する「いま、ここに、ある幸せ」を大切にして、健康寿命を延ばすために、食餌選びからセカンドオピニオンまで、飼い主の抱える小さな不安の解消に日々努める。