猫にとって危険な刺身を食べたときの症状と対処法を獣医が解説
最終更新日:2024年07月09日
本コンテンツは獣医師2名による確認を行い、制作をしております。
猫に刺身を食べさせても問題ありません。しかし、すべての刺身を食べさせていいわけではなく、中には有害で注意が必要なものもあります。また、猫の体調や年齢などによって、与えてはいけない場合もあります。
ここでは猫に与えてはいけない刺身の種類、猫がそれらを食べたときの症状や対処の仕方を獣医師が詳しく解説します。
- 猫に刺身を与えても基本的には大丈夫
- 猫に与えてはいけない魚介の刺身
- 猫に刺身を与えるときの注意点
- こんなときは猫に刺身を食べさせないこと
- 猫にとって危険な刺身を食べてしまった場合の対処法
- まとめ「甲殻類や貝類、青魚といった刺身は与えないこと」
猫に刺身を与えても基本的には大丈夫
―猫に刺身を食べさせても大丈夫ですか?
猫に刺身を与えることは、基本的には問題ありません。魚の刺身の中には、猫の健康に有用な成分が含まれているものもあります。
例えば、マグロの刺身には豊富なたんぱく質やDHA・EPA、ビタミンB6、タウリンなどが含まれています。たんぱく質は体全体の機能の維持に必要な3大栄養素のひとつです。DHA・EPAはオメガ3系脂肪酸の1種で、体内で抗炎症作用や抗凝血作用など、さまざまな働きをして健康の維持に役立ちます。ビタミンB6は体内のあらゆる酵素の補助をし、代謝における重要な因子です。タウリンには抗酸化作用などの機能があり、胆汁酸塩の合成や繁殖、視力、および聴力の維持に必要な物質です。
このように、魚の刺身には猫にとって有用な成分を含んでいるものがありますが、食べさせてはいけない種類もあります。また、健康にいい種類の刺身だとしても、与えすぎにより体調を崩してしまう場合もあります。
猫に与えてはいけない魚介の刺身
エビ、カニ、ホタテなどの刺身は、猫に「チアミン(ビタミンB1)欠乏症」を引き起こす
―猫に食べさせてはいけない刺身を教えてください。
エビ、カニ、ホタテなどの甲殻類、および貝類の刺身は猫にチアミン(ビタミンB1)欠乏症を引き起こすおそれがあるため、与えてはいけません。これらの刺身には、チアミナーゼという酵素が多く含まれています。この酵素は、チアミン(ビタミンB1)を分解する作用をもっています。そのため、これらの刺身を猫がたくさん食べてしまうと、体内のチアミンが分解されてしまい、チアミン欠乏症を引き起こすのです。
チアミン欠乏症の症状
- 脚気(かっけ:ビタミンB1不足により、神経機能の調節や消化機能が衰える状態。主な症状は、全体の倦怠感、食欲不振、手足のしびれ、むくみなど)
- 疲労
- 筋力低下
- 歩行障害
- 視力障害
- 発作
青魚の刺身
アジやサンマ、サバは「イエローファット(黄色脂肪症)」に注意
アジやサンマ、サバは高度不飽和脂肪酸という物質を豊富に含みます。猫がこれらの魚をたくさん食べると、高度不飽和脂肪酸の過剰摂取によりイエローファット(黄色脂肪症)を起こすおそれがあります。
イエローファットの症状
- 元気消失
- 食欲低下
- 疼痛(とうつう)
- 脱毛
貝類の内臓
アワビやサザエの内臓は猫が「光線過敏症」になるおそれ
2月~5月のアワビ類やサザエの内臓(中腸腺)には、ピロフェオホルバイドという化学物質が含まれています。これはクロロフィルaの誘導体で、日光や紫外線を当てると強い赤色の傾向を放つ特性をもっています。
猫がアワビを食べて腸管からピロフェオホルバイドaを吸収すると、血液を介して生体内各組織細胞に運ばれます。この物質の存在下では、光により活性化された酸素が細胞膜を構成している脂肪酸などを酸化して酸化脂質を作ります。そして、この酸化脂質が生体膜の組織細胞を破壊、そのほか各種の障害を誘発し、毛細血管の透過性を高めて、皮膚にかゆみを生じると考えられています。東北地方では、「春先のアワビのツノワタ(内臓)を食べさせると猫の耳が落ちる」という言い伝えが古くからあります。
参考
厚生労働省HP
https://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/poison/animal_det_16.html
光線過敏症の症状
- 皮膚のかゆみ
- 皮膚の疼痛
- 皮膚の赤み
- 脱毛
鮮度の悪い赤身魚の刺身
常温で放置されたマグロやブリ、カツオなどは「ヒスタミン中毒」に警戒
ある種の細菌は魚肉を汚染して増殖すると、魚肉のたんぱく質を構成するヒスチジンからヒスタミンを産生します。ヒスタミンはアレルギー反応の際に生じる物質でもあり、これを猫が食べるとヒスタミン中毒を引き起こし、アレルギーのような症状が見られる場合があります。マグロやブリ、カツオなどの赤身の魚はヒスチジンを多く含むため、ヒスタミン中毒の原因になりやすいのです。
ヒスタミン中毒の症状
- 皮膚のかゆみ
- 皮膚の赤み
- 下痢
- 嘔吐(おうと)
- 食欲不振
- 元気消失
猫に刺身を与えるときの注意点
猫に与える刺身はごく少量、猫のひと口サイズで
―猫に食べさせてはいけない刺身の種類についてはわかりましたが、そのほか注意すべきことはありますか?
基本的に、猫に刺身を与える必要はありません。どうしても与えたい場合には少量にしましょう。マグロを始め刺身には、猫の健康にいい成分も含まれていますが、必要な栄養成分はすべてキャットフードに含まれています。さらに、マグロには、チアミン欠乏症のリスクもあることを考えると、刺身を与えるメリットよりもデメリットのほうが多いと言えます。そのため、どうしても与える場合は、ごく少量、具体的には猫のひと口サイズくらいにしましょう。
刺身は身だけを与える
刺身を猫に与える場合は、身だけを与えるようにしてください。骨やしっぽは猫の食道に詰まったり、刺さったりしてしまう危険性があります。内臓はアワビのように有毒物質や、寄生虫を含んでいる可能性があります。したがって、刺身を与える際には身だけを与え、骨やしっぽ、内臓などは決して与えてはいけません。
アニサキスのような寄生虫に注意
生魚には寄生虫がいる可能性があるため、釣ってきた魚を自分で調理して猫に与える場合は注意が必要です。下処理は、できるだけ魚屋さんやスーパーのプロに任せたほうがいいでしょう。
生魚によく見られる寄生虫にアニサキスがあります。アニサキスは線虫の一種で、サバやアジ、サンマ、カツオ、イワシ、サケ、イカなどによく見られます。アニサキスに感染すると、食後数時間で激しい腹痛や嘔吐などが症状として現れます。人での症例がほとんどですが、猫でも同じような症状が見られる可能性があります。アニサキスを予防するためには、魚介類の生食を避け、冷凍処理をしましょう。
味付けした刺身や、刺身の加工食品は猫に与えない
―刺身に醤油を付けて食べさせたり、漬けマグロやサーモンのカルパッチョなどを猫に与えたりしても問題ありませんか?
味付けした刺身は塩分過多になるおそれがあるため、与えてはいけません。腎臓病の原因になる場合があります。また、味付けに玉ねぎやニンニクを使用していると、中毒を引き起こす場合があります。これらの食材は猫の赤血球を破壊し、貧血の原因となります。
食物アレルギー
どんな食材についても食物アレルギーの可能性が考えられますが、刺身がその原因になる場合もあります。アレルギー体質の猫の場合は、特に注意してください。また、初めて与える際は、ごく少量ずつ与えて様子を見るのがいいでしょう。
こんなときは猫に刺身を食べさせないこと
―どんな場合には、猫に刺身を食べさせないほうがいいのでしょうか?
療法食を処方されている場合
腎臓病やアレルギーなどで療法食を処方されている猫には、刺身を与えてはいけません。療法食以外のものを与えてしまうと、効果がなくなってしまうおそれがあるからです。
免疫が不十分な子猫や老猫
免疫が十分にない子猫や老猫などの場合、少量の病原体でも感染が成立してしまうおそれがあります。刺身は生食のため、多少なりとも細菌が付着していますし、寄生虫のリスクもあります。そのため、子猫や老猫には、これらの感染を予防するためにも刺身を与えないほうがいいでしょう。
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猫にとって危険な刺身を食べてしまった場合の対処法
家庭内ですべき対処
―猫が食べると危険な刺身を誤食してしまったら、家庭でどう対処したらいいのでしょうか?
誤食を確認したら、猫がそれ以上食べてしまわないよう、すぐにその場から離してください。そして、なるべく早く動物病院を受診してください。
猫が下痢や嘔吐などの症状を示している場合は、うんちや吐しゃ物を動物病院に持参して検査してもらうといいでしょう。また、何をどのくらい食べたのか、いつからどのように症状が表れているのかをメモして獣医師に伝えると診断の助けになります。
病院での対処法
―病院ではどのような処置をするのですか?
誤食の直後であれば、吐かせる処置や胃洗浄などを行う場合があります。嘔吐や下痢などにより脱水症状を起こしている場合は、点滴により水分を補います。症状がひどい場合には、下痢止めや吐き気止めの薬を使うこともあります。
まとめ「猫に甲殻類や貝類、青魚といった刺身は与えないこと」
刺身は猫の健康に役立つものもありますが、甲殻類や貝類、青魚といった刺身は食べられません。猫に刺身を与える際には鮮度のよい身を少量だけにしましょう。アレルギーや療法食の猫、子猫や老猫には食べさせないようにし、愛猫の体調をよく確認したうえで与えるようにしてください。
愛猫に食べさせていいかを迷ったり、何かを食べて具合が悪くなったかもしれないと思ったりしたら、獣医師監修の「猫が食べてはいけない危険な食べ物」「猫が食べても大丈夫なもの」を併せてご覧ください。
関連リンク
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