犬の鼻炎の症状と原因、治療法について
最終更新日:2024年07月09日
本コンテンツは獣医師2名による確認を行い、制作をしております。
犬の鼻炎の症状
犬の鼻炎とは、鼻腔内の粘膜が炎症を起こしている状態を指します。次のような症状が現れた場合、鼻炎の可能性があります。
- くしゃみ
- 鼻汁
- 鼻を気にしてこする
- 鼻血
- 鼻を鳴らす
- 口を開けて呼吸する
犬の鼻炎の初期症状は、軽度のくしゃみが一日に1~2回出る程度、鼻汁は透明でサラサラの状態です。症状が進行すると、くしゃみの回数が増え、膿(うみ)が混じって白~緑がかったネバネバした鼻水になります。さらに症状が重くなると、鼻水に血が混じり、ブーブーと鼻が鳴るような呼吸音を出したり、鼻呼吸ができずに口を開けて呼吸をしたりします。
こんな症状が見られたらすぐに動物病院を受診
鼻汁やくしゃみだけでなく、次のような症状が犬に見られる場合は、早急に動物病院を受診してください。
- 呼吸困難
- 開口呼吸
- 顔面の変形
- 急に倒れる
- 鼻血が止まらない
風邪だと自己判断をして様子を見ていると、犬の鼻炎が重症化して命に危険がおよぶ可能性があるため、なかなか治まらないくしゃみや鼻水には注意が必要です。
犬が鼻炎になる原因
犬の鼻炎は、異物によって鼻腔内の粘膜が刺激されて起こります。異物が犬の体に侵入すると、鼻水を大量に分泌して異物を絡め取り、くしゃみで体外に出そうとする働きが活発になるため、鼻炎の症状が現れます。
最も多い鼻炎の原因は、細菌、ウイルス、真菌(カビ)などの感染症です。花粉やハウスダストなどアレルゲン、鼻腔内の腫瘍、草の実や植物の種、歯周病を始めとする口腔内疾患も鼻炎を引き起こします。
鼻炎を引き起こす可能性のある病気
次のような病気は、犬の鼻炎を引き起こす可能性があります。
感染症
細菌、ウイルス、真菌などの微生物が鼻の粘膜に付着して感染すると、粘膜に炎症が起こり、鼻炎の症状が悪化します。
犬ジステンパーウイルス感染症は、犬ジステンパーウイルスが原因で発症する伝染性疾患で、鼻水・くしゃみといった鼻炎症状が現れる場合があります。死亡率が高く、ほかの犬に容易に感染するため、感染が疑われる場合は、速やかに隔離します。
アレルギー性鼻炎は、鼻から吸い込まれた花粉やハウスダストなどが鼻腔粘膜に付着し、アレルゲンと認識されると、アレルギー反応を起こして鼻炎の症状が現れます。
鼻腔内の腫瘍
感染症が原因の鼻炎とは異なり、腫瘍がある片側の鼻の穴からのみ鼻汁が出る傾向があります。ただし、発生初期は犬の外見からは確認できないケースが多く、症状もほとんどないため発見が遅れがちです。重症化すると、腫瘍が巨大化して顔面が変形する場合があります。
歯根膿瘍(しこんのうよう)
中~高齢犬に多く見られる歯周病が悪化すると、歯根部(歯ぐきに埋まっている根っこの部分)に膿がたまって歯根膿瘍を引き起こします。上あごの歯根部は鼻に近い場所にあるため、炎症が鼻に広がると、くしゃみや鼻汁がひどくなります。
口蓋裂(こうがいれつ)
犬の口蓋裂は、口腔内の上部に裂け目ができて、口と鼻がつながった状態の先天奇形です。ミルクや離乳食が口蓋裂部分から鼻の穴に入り、鼻炎を引き起こす場合があります。
鼻炎になりやすい犬の特徴は?
鼻炎になりやすい犬の特徴は、コリーやダックスフンドなど鼻が長い長頭種、抵抗力の弱い子犬、腫瘍や歯周病を発症しやすい高齢犬です。しかし、犬種や年齢を問わず鼻炎になる可能性があります。
犬の鼻炎の治療法
検査内容
血液検査
犬の全身状態や炎症の程度を確認します。
X線検査
犬の鼻腔内の炎症の有無や異物を確認します。ただし、X線検査で確認できないケースもあります。
アレルギー検査
季節差や環境によって犬の症状に違いがある場合は、アレルギー検査を実施してアレルゲンの有無を確認します。
鼻汁の細胞診
初期治療後に鼻汁の分泌が改善されない場合は、犬の鼻汁に含まれる細胞や細菌の検査を行います。検査の結果、腫瘍が疑われる細胞の場合は、検査機関で詳しく確認します。細菌が多く見られる場合には、細菌の種類を確認する細菌同定検査や、適切な抗生剤を選択するために細菌感受性テストを行います。
内視鏡検査(鼻腔内)
鼻腔内を観察できる内視鏡を保有している病院では、鼻腔内を直接観察して検査を行います。
CT検査、MRI検査
治療の効果がない場合や、犬の症状が長引いている場合には、CT検査やMRI検査を必要に応じて実施します。
治療法
感染症
鼻炎の原因になっている細菌、ウイルス、真菌に合わせて、抗生剤や抗真菌薬などを用いて治療を行います。
犬ジステンパーウイルス感染症は、特効的な治療はないため、鼻汁やくしゃみ、咳(せき)といった症状に合わせて対症療法を行います。
アレルギー性鼻炎は、アレルギー検査で特定されたアレルゲンをさける生活を指導されます。アレルギー反応を抑えるための内服薬は、自己判断せず、獣医師が処方した薬を指示された通りに与えましょう。
鼻腔内の腫瘍
外科手術で腫瘍を切除します。腫瘍の種類によっては抗がん剤治療に進みます。
歯根膿瘍
歯周病の治療として、抗生剤や消炎剤の投与、歯磨きなどを犬に行います。歯の状態がひどい場合は、歯周病治療の前に、歯石除去や抜歯をして口腔内を清潔にします。
鼻腔内の異物
草の実や種などの異物が犬の鼻腔内に確認できた場合は、麻酔下で取り除きます。状態に応じて、外科的処置を行う場合もあります。
口蓋裂(こうがいれつ)
手術可能な月齢まで成長した段階で、裂けている部分を縫い合わせる手術を行います。
無治療の場合
感染症
感染が軽度で体力が十分にある場合は、自然に治る可能性がある一方、こじれると肺炎や呼吸困難を引き起こし、命にかかわります。
犬ジステンパーウイルス感染症は、有効な治療方法がなく、死亡率が非常に高い病気のため、無治療での救命は難しいでしょう。
アレルギー性鼻炎は、アレルゲンの種類によっては、無治療でもアレルゲンに触れないように気を付けて生活すると犬の症状が軽減します。しかし、ハウスダストのように室内に常に存在しているアレルゲンはさけるのが難しく、重症化して呼吸困難を引き起こす場合があります。
鼻腔内の腫瘍
犬の鼻腔内の腫瘍は、放置すると徐々に大きくなり、呼吸困難や顔面の変形などが起こります。腫瘍が異常に大きくなると治療が困難になり、手遅れになります。
歯根膿瘍
犬の歯根部にたまった膿が、炎症や圧迫により弱くなった皮膚を破って排泄(はいせつ)されます。排泄により、一時的に回復したように見えますが、再発しやすいため注意が必要です。
また、口腔内の環境が悪化することにより、口臭や流涎(りゅうえん:よだれを流すこと)が発生して、歯肉からの出血やしっかり食事をかめない事態につながります。さらに歯周病が進行すると、あごの骨に炎症がおよび、あごを骨折するおそれがあります。
鼻腔内の異物
くしゃみや鼻水で自然に排出される可能性はありますが、異物が残ったまま放置されると、周辺の組織の炎症が悪化して、激しい痛みや発熱を犬に引き起こします。
口蓋裂
自然に口蓋裂部分が閉鎖する可能性はありません。無治療のままでは、十分な栄養を摂取できず、成長不良につながります。また、鼻腔内に食物残差が入り込み、誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)を引き起こすと犬の命にかかわります。
犬の鼻炎の予防法
犬ジステンパーウイルス感染症
ワクチン接種で予防が可能ですので、獣医師に相談してください。
アレルギー性鼻炎
アレルギー性鼻炎は、原因や時期に合わせた対策をすると、犬の症状を軽減できるケースがあります。アレルゲンがハウスダストの場合は、部屋のこまめな清掃が有効です。花粉の場合は室内で飼育したり、外出時に花粉が付着しにくい服を着せたり、帰宅後は家の外で犬の体を拭いたりしてあげると効果的です。空気清浄機を設置するのも、アレルゲン対策に役立ちます。
歯根膿瘍
日ごろからのていねいな歯磨きや定期的な歯石除去などを習慣づけると、歯周病予防になり、鼻炎予防にもつながります。
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記事監修:ペットメディカルサポート株式会社
動物病院での実務経験をもつベテラン獣医師および動物看護師が多数在籍するペット保険の少額短期保険会社。スタッフ全員が動物好きなのはもちろんのこと、犬や猫といったペットを飼っている者も多いので、飼い主様と同じ目線に立ったサポートに取り組んでいます。