犬の気管虚脱の症状と原因、治療法について
最終更新日:2024年07月09日
本コンテンツは獣医師2名による確認を行い、制作をしております。
- 犬の気管虚脱ってどんな病気?
- どうして症状が出るの? 原因は?
- どんな犬が気管虚脱にかかりやすいの?
- 犬の気管虚脱の症状とチェック項目
- 犬の気管虚脱の治療にはどんな方法があるの?
- どうやって予防したらいいの?
犬の気管虚脱ってどんな病気?
気管虚脱は、胸の中の気管という空気を運ぶ管がひしゃげてしまうことで正常に空気が流れなくなってしまい、呼吸が苦しくなってしまう病気です。
小型犬で好発し、乾いた咳が出る、アヒルのようなガーガーという呼吸をするという症状を訴えて動物病院に来院されることが多く見られます。また、問題のある気道に口の中の細菌を吸い込むことで気道の炎症が悪化、咳が増加し、気管虚脱の症状が悪化することがあります。そして、治療をしないと徐々に症状は進行し、やがて呼吸困難を起こします。
なお、気管虚脱の犬の少なくとも40%である程度の歯周病を発症していると考えられています。
どうして症状が出るの?原因は?
現時点では、発症に遺伝的な要素が関係しているということはわかっていますが、具体的な原因は解明されていません。
気管は空気を取り入れるための管で、洗濯ホースをイメージするとわかりやすいかもしれません。常に空気が出たり入ったりしているため、潰れないようにアルファベットのCの字の形をした気管軟骨輪が35~45個、気管の外側に連続して存在しています。Cの隙間が空いている部分が気管の天井部分になるのですが、軟骨ではなく膜が覆っており、この部分は膜樣部と呼ばれます。
この気管軟骨輪の構造的な異常と天井部分にある膜樣部の変化が、気管虚脱の発症に関わっていると考えられています。膜樣部がたるんで気管の内腔が狭くなると、空気の流れが悪くなり、呼吸状態に変化が起こります。
気管の虚脱(著しい脱力状態に陥ること)する部分は、一部分に留まることも気管全体に見られることもあります。最も頻繁に虚脱が認められる部分は、胸の入口です。息を吸うときに虚脱することも、吐くときに虚脱することもありますが、これは虚脱する場所によるとされています。
犬の気管虚脱を重症度を表すグレード
気管虚脱は重症度によって4段階に分類されます。
グレード1
最も軽症です。気道直径の減少率は25%程度であり、気管の内腔へ膜様部が軽度に飛び出している状態です。
グレード2
気道直径の減少率は50%程度で、気管は軽度から中程度に伸びて平坦になっています。
グレード3
気道直径の減少率は75%になり、気管は重度に平坦化します。
グレード4
最も重症で、気道直径の減少率は90%を超え、天井部分の膜が床側の気管に接触するくらいまで虚脱します。
どんな犬が気管虚脱にかかりやすいの?
下記の犬種で、7歳以上に好発するとされています。しかしながら、気管虚脱になった犬の25%が、生後6か月までに症状が出ていたという報告があります。
- ポメラニアン
- 狆
- マルチーズ
- トイ・プードル
- ヨークシャー・テリア
- チワワ
- ボクサー
- ブルドッグ
- シー・ズー
- スピッツ
- ペキニーズ
- パグ
- ビーグル など
また、小型犬や短頭種での発生が多いと言えますが、それ以外の犬種、大型犬でも見られるので注意が必要です。
犬の気管虚脱の症状とチェック項目
気管虚脱になると下記のような症状が犬に見られるようになります。
- 咳(最初は乾いた咳で、感染症を併発すると湿った咳)
- 疲れやすい
- 呼吸がゼーゼーする
- 口を開けて苦しそうに呼吸する
- 失神する
- チアノーゼ(歯ぐきなどの粘膜の色が悪くなる)
- 元気や食欲がなくなる
- 眠れなくなる
- 体温が高くなる
なお、いきなり失神したり、チアノーゼを起こしたりすることはなく、初期症状としては咳や変な呼吸が見られます。そのため、その時点できちんと診断して治療を始めるようにしましょう。
犬の気管虚脱はどうやって診断されるの?
息を吸っている時と吐いている時でレントゲン撮影を行います。これは虚脱する部位によって、虚脱するタイミングが違うためです。レントゲン撮影で診断できる確率は59~92%とされています。ほかには、レントゲンの透視撮影や超音波検査、気管支鏡検査などを行うこともあります。
犬の気管虚脱の治療にはどんな方法があるの?
症状を悪化させる要因を取り除く
内科治療を行う場合も外科治療を行う場合も、まずは症状を悪化させるような要素を徹底的に取り除くことが基本です。
太っている場合は、まずダイエットさせます。体重を減らすことは、ほかの薬物治療を成功させるためにも極めて重要です。また、ご家族にタバコを吸っている方がいる場合は、犬が煙を吸わないように気をつける、首輪に代わりにハーネスにする、歯石除去を行うといったことも重要です。
内科治療
症状が軽度の場合、ご家族が手術を希望しない場合に行います。7割くらいの症例で良好な経過が得られますが、病気の進行自体を抑えることはできません。しかしながら、実際にはほとんどのケースで内科治療が行われます。内服薬としては、鎮咳剤、気管支拡張剤、去痰剤を使用します。抗炎症剤としてステロイドを使用することもあります。
外科治療
現在では気管外のリングプロテーゼ、または気管内のステント設置が行われています。
気管外のリングプロテーゼ
気管外のリングプロテーゼは、主に虚脱部が頸部の気管の場合に適用されます。これは、75~85%で良好な結果が得られたと報告されています。
ステント治療
一方、ステント治療は、気管の虚脱部にステントを挿入する治療です。ステントとは、体内の管状の部分を内側から広げるための器具です。こちらも良好な経過が得られますが、ステントを設置した場合、定期的な気管内視鏡検査やネブライジング(薬剤を霧状にして気道内に吸入させる)が必要になります。
犬の気管虚脱は治せるの?
現実的にはほとんどの場合で内科治療を行いますが、内科治療はあくまで症状を抑えるための対症療法です。そのため、内科治療では治すことはできません。
外科治療が成功すれば、虚脱は起こらなくなるため治ったと言えますが、合併症のリスクがあり、その後の通院が必要になることがあります。そのため、なかなか「治った」と言いにくいのがこの病気の厄介なところです。
どうやって予防したらいいの? 症状を緩和するにはどうしたらいいの?
治療の項目でも触れたように、症状を悪化させる要素の除外が症状の緩和になります。
太っていればダイエット、タバコの煙を吸わないような環境整備、首輪からハーネスへの変更などです。また、併発している呼吸器の感染症のコントロールや歯石の除去も重要です。加えて、興奮も症状を悪化させるため、性格的に興奮しやすい犬であれば、できるだけ安静な生活を心がけてください。このほか、冷気を吸い込むこと、高温多湿な環境も気管虚脱には良くないため、できるだけ避けましょう。
犬の気管虚脱に見られる症状の関連記事
犬の呼吸器系の病気
犬種別の保険料
- 純血犬は、犬種により「小型犬」「中型犬」「大型犬」の3つに分類され、それぞれ保険料が異なります。犬種の区分については、「犬種分類表」をご確認ください。
- ミックス犬の保険料は、年齢と体重により「小型犬」「中型犬」「大型犬」の3つに分類します。詳しくは、「犬種分類表」の「ミックス犬」の欄をご確認ください。
- 猫の場合は、品種によらず純血猫もミックス猫もすべて同じ保険料です。
ア行~カ行犬の品種分類表
ア行
- アーフェンピンシャー
- アイリッシュ・ウルフハウンド
- アイリッシュ・セター
- 秋田
- アフガン・ハウンド
- アメリカン・コッカー・スパニエル
- アメリカン・スタッフォードシャー・テリア
- アメリカン・ピット・ブルテリア
- アメリカン・フォックスハウンド
- アラスカン・マラミュート
- イタリアン・グレーハウンド
- イングリッシュ・コッカー・スパニエル
- イングリッシュ・スプリンガー・スパニエル
- イングリッシュ・セター
- イングリッシュ・ポインター
- ウィペット
- ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア
- ウェルシュ・コーギー・カーディガン
- ウェルシュ・コーギー・ペンブローク
- ウェルシュ・スプリンガー・スパニエル
- ウェルシュ・テリア
- エアデール・テリア
- オーストラリアン・キャトル・ドッグ
- オーストラリアン・ケルピー
- オーストラリアン・シェパード
- オーストラリアン・シルキー・テリア
- オーストラリアン・テリア
- オールド・イングリッシュ・シープドッグ
カ行
- カーリーコーテッド・レトリーバー
- 甲斐
- カニーンヘン・ダックスフンド
- キースホンド/ジャーマン・ウルフスピッツ
- 紀州
- キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル
- キング・チャールズ・スパニエル
- グレート・デーン
- グレート・ピレニーズ
- グレーハウンド
- ケアーン・テリア
- ケリー・ブルー・テリア
- コーイケルホンディエ
- コーカサス・シープドッグ
- ゴードン・セター
- ゴールデン・レトリーバー
- コリア・ジンドー・ドッグ
- コリー
サ行~ナ行
サ行
- サモエド
- サルーキ
- シー・ズー
- シーリハム・テリア
- シェットランド・シープドッグ
- 四国
- 柴(小柴・豆柴も含む)
- シベリアン・ハスキー
- シャー・ペイ
- ジャーマン・シェパード・ドッグ
- ジャーマン・ポインター
- ジャイアント・シュナウザー
- ジャック・ラッセル・テリア
- スカイ・テリア
- スキッパーキ
- スコティッシュ・テリア
- スタッフォードシャー・ブル・テリア
- スタンダード・シュナウザー
- スタンダード・ダックスフンド
- スタンダード・プードル
- セント・バーナード
タ行
- ダルメシアン
- ダンディ・ディンモント・テリア
- チェサピーク・ベイ・レトリーバー
- チベタン・スパニエル
- チベタン・テリア
- チベタン・マスティフ
- チャイニーズ・クレステッド・ドッグ
- チャウ・チャウ
- チワワ
- 狆(ちん)
- トイ・プードル
- トイ・マンチェスター・テリア
- ドーベルマン
- ドゴ・アルヘンティーノ
- 土佐
ナ行
- ナポリタン・マスティフ
- 日本スピッツ
- 日本テリア
- ニューファンドランド
- ノーフォーク・テリア
- ノーリッチ・テリア
ハ行~ワ行・その他
ハ行
- バーニーズ・マウンテン・ドッグ
- パグ
- バセット・ハウンド
- バセンジー
- パピヨン
- ハリア
- ビアデッド・コリー
- ビーグル
- ビション・フリーゼ
- ブービエ・デ・フランダース
- プーミー
- プーリー
- プチ・バセット・グリフォン・バンデーン
- プチ・バラバンソン
- フラットコーテッド・レトリーバー
- ブリタニー・スパニエル
- ブリュッセル・グリフォン
- ブル・テリア
- ブルドッグ
- ブルマスティフ
- フレンチ・ブルドッグ
- ペキニーズ
- ベドリントン・テリア
- ベルジアン・シェパード・ドッグ
- ボーダー・コリー
- ボーダー・テリア
- ポーチュギーズ・ウォーター・ドッグ
- ボクサー
- ボストン・テリア
- 北海道
- ポメラニアン
- ポリッシュ・ローランド・シープドッグ
- ボルゾイ
- ボロニーズ
- ホワイト・シェパード・ドッグ
マ行
- マスティフ
- マルチーズ
- マンチェスター・テリア
- ミディアム・プードル
- ミニ・オーストラリアン・ブルドッグ
- ミニチュア・シュナウザー
- ミニチュア・ダックスフンド
- ミニチュア・ピンシャー
- ミニチュア・プードル
- ミニチュア・ブル・テリア
ヤ行
ラ行
- ラージ・ミュンスターレンダー
- ラサ・アプソ
- ラブラドール・レトリーバー
- レークランド・テリア
- レオンベルガー
- ローデシアン・リッジバック
- ロットワイラー
ワ行
ミックス犬(※1)
- 8か月未満:6kg未満
- 8か月以上:8kg未満
- 8か月未満:6kg以上~20kg未満
- 8か月以上:8kg以上~25kg未満
- 8か月未満:20kg以上
- 8か月以上:25kg以上
※ 「犬種分類表」に記載のない犬種の分類につきましては別途お問い合わせ下さい。
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記事監修:ペットメディカルサポート株式会社
動物病院での実務経験をもつベテラン獣医師および動物看護師が多数在籍するペット保険の少額短期保険会社。スタッフ全員が動物好きなのはもちろんのこと、犬や猫といったペットを飼っている者も多いので、飼い主様と同じ目線に立ったサポートに取り組んでいます。