犬の咳の原因・病気とは?病院に連れて行くべき症状と対処法を獣医師が解説

犬が咳をするようになった、咳が止まらない原因としてどんな病気が考えられるのでしょうか。また、病院に連れて行くタイミング、予防や対処法などを獣医師の三宅亜希先生に監修いただきました。

犬の咳は、カッカッ、カハッと何かを吐き出すようなしぐさが見られます。愛犬がえずくような変な咳をしていても、そのうち治るだろうと思っていたら、病状が悪化し、取り返しのつかない事態になってしまうかもしれません。気になることがあれば、すぐに獣医師さんに相談しましょう。

犬の咳の原因・病気とは?病院に連れて行くべき症状を獣医師が解説

犬の保険について

犬の咳の原因とは?

―犬の咳が起こるメカニズム、原因について教えてください。

犬が咳をしているからといって、必ずしも病気が原因とは限りません。例えば、リードを強く引っ張ったときや興奮して吠えたとき、水を飲んだとき、冷たい空気を吸ったときなどに出る「カハッ」「カッカッ」という一過性の乾いた咳は、病的なものではなく生理的な咳であることがほとんどです。

ここからは、犬が咳をする主な原因について詳しく解説していきます。

生理現象

犬は生理現象で咳をすることも多いです。たとえば、水を飲む際にむせてしまった場合などが考えられます。

一過性の場合がほとんどのため、特に治療の必要はありません。

また、人間が喉を圧迫刺激した際に咳をする場合もあります。

頻発するようならば気管疾患を疑わなければなりませんが、一時的な咳であれば様子見で良いことがほとんどです。

誤飲や誤食

誤飲や誤食による違和感から咳をしている場合もあります。

気管に草のような異物が刺さっている場合やプラスチックなど消化できないものを食べて違和感から咳をしている場合が考えられます。

誤飲しているものが大きいものの場合、気道閉塞や腸閉塞を引き起こす可能性があるため早急に動物病院を受診するようにしましょう。

肺炎

肺炎は犬に咳を引き起こすことが多い疾患の1つです。

肺炎になった犬は、痰が絡んだような咳をすることが多いです。 重症化すると命を落とすこともあります。

症状としては、咳以外にも食欲不振や発熱などがみられることがあります。

基本的に酸素室での点滴治療や抗生剤投与を行う必要があるため、動物病院での入院治療が必要です。

特に誤嚥しやすく感染に弱い老犬などでは、肺炎が重症化しやすいため注意しましょう。 もし、愛犬がいつもと違う咳をしている場合には早急に動物病院を受診しましょう。

喘息

犬の喘息は、環境中のアレルゲンに反応していたり、ストレスや運動不足などさまざまな原因によって慢性的に気道内で炎症が起きている状態です。

軽い咳から呼吸困難に至るまで、さまざまな重症度合いの症状が見られます。

ヒューヒュー、ゼェーゼェーと言った咳が聞こえたり、呼吸困難から酸素不足で発作を起こしたりする場合があります。

放置していると命を落とす危険性の高い病気であるため、注意が必要です。

日頃の投薬治療や喘息が起こった際の応急処置法を把握しておくようにしましょう。

アレルギー

花粉やハウスダストなどの環境中のアレルゲンによっても咳が引き起こされます。

他にも注意すべきアレルゲンは以下の通りです。 アレルゲンは個体によって異なります。

注意すべきアレルゲン以外にも、反応しているものがある可能性も高いため、咳が続いてアレルギーが疑われる場合は、検査などで特定が必要です。

  • タバコの煙
  • 芳香剤
  • 脱臭剤
  • 香水

アレルギー性の咳では、肺や気管支に炎症が引き起こされて咳が発生します。

重症化すると酸素不足により呼吸困難に陥る場合があるため注意が必要です。

治療としては、ステロイド材などを使用して炎症を止める治療が用いられます。 アレルゲンの吸入によって引き起こされることが多いため、愛犬が過ごす環境の整備も大切です。

心臓病

心臓の肥大による気管の圧迫や、循環不全による肺へ水が溜まる異常などで呼吸異常や咳につながるケースが多いです。

聴診によって心雑音の有無を確認することや、レントゲン、エコー、心電図などによる精密検査を行うことで、心臓の状態を把握し、心臓病であるかどうかを判断します。

ひどい場合死に至るケースもあるため注意が必要です。 心臓病である場合は、投薬による内科的治療や外科的な治療などを選択して行なうことで、状態を改善し、咳を緩和できる可能性が高いです。

ケンネルコフ

免疫力が不充分な若齢の仔犬や、高齢犬などに多い疾患です。

ウイルスや細菌などによって起こる感染症です。

軽度であれば、自分の免疫力で治癒できることも多いですが、悪化すると肺炎に至ってしまったり、体力の低下につながり、死に至る危険性もあるため注意が必要です。

咳がひどい場合は、動物病院を早めに受診するよう心がけましょう。

また、完全な予防に繋がることは少ないですが、予防接種の定期的な接種も、免疫力を充分につけるためには有意義です。

犬の咳の原因として考えられる病気とは?

―犬が咳をする病気として、どんなものがありますか?

子犬の場合

子犬の場合は、前述のようにケンネルコフ(犬伝染性気管気管支炎)や異物誤飲(食道内異物)などが考えられます。

ケンネルコフは、ウイルスや細菌などの感染が原因で起こり、えずくような咳や発熱、鼻水、食欲不振、くしゃみ、目やになどの症状が見られます。

異物誤飲は、文字どおり本来口にしてはいけない物を誤って飲み込んでしまう病気です。ですが、異物ではなく果物や犬用ガムなどがを飲み込み、それらが食道に引っかかってしまうケースも多いのです。ぐぅぐぅと普段聞こえない音が喉の辺りから聞こえたり、唾液が増えたり、咳が出たりといった症状が現れます。

中・高齢犬の場合

中・高齢犬の場合は、心臓病や気管虚脱などが考えられます。

心臓病

人間の場合、心臓病といえば心筋梗塞や狭心症、不整脈などが一般的ですが、犬の場合は、「僧帽弁閉鎖不全症(そうぼうべんへいさふぜんしょう)が最も多く、ポメラニアンやマルチーズ、チワワなどの小型犬や、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルなどの犬種によく起こります。

初期の段階では無症状であることがほとんどですが、病気が進行すると運動をしたがらなくなったり、少し走ったときや興奮したときに「カハッ、カハッ」という喉につかえるような咳が出たりします。さらに病気が進行すると肺水腫を発症し、呼吸困難やチアノーゼ(血中の酸素が欠乏して、皮膚や粘膜が青紫色に変色すること)を起したり、突然倒れたりする場合もあります。

心疾患の原因、症状、治療法など詳しい内容は、「犬の心疾患」をご覧ください。

気管虚脱

気管虚脱は、気管が潰れてしまう病気で、ポメラニアンやトイ・プードル、チワワなどの小型犬によく見られます。詰まったような咳や水を飲んだときにむせるような咳が出たり、「ガーガー」とガチョウの鳴き声のような呼吸音がしたりします。さらに病気が進行すると呼吸困難やチアノーゼを起こしたり、突然倒れたりする場合もあります。

気管虚脱の原因、症状、治療法など詳しい内容は、「犬の気管虚脱」をご覧ください。

犬の咳の対処法・応急処置

犬の咳の対処法・応急処置

―犬の咳には、どのように対処したらいいのでしょうか。

咳の様子を観察し、症状を記録

まずは咳の状態をよく観察してください。病院では、いつから咳が出ているのか、どんなときに咳き込むのか、どんな咳が出るのか、咳以外の症状があるのかなどを確認するため、これらをメモしておくようにしましょう。スマホで動画を撮影しておくと、より詳しい状況を伝えることができますよ。

例えば、リードを強く引っ張ったときに咳が出たのであれば、首輪を胴輪に替え、水を飲むときに咳が出たのであれば、水飲みの器の高さを調整するといった対策をしてください。このように、具体的な場面のときだけ咳が出て、対策によって収まるという場合は、生理的な咳である可能性が考えられます。

呼吸困難時は、すぐに病院に電話

また、異物が食道に引っかかっている場合は、すぐに動物病院で処置を受ける必要があります。異物が口から取り出せそうな位置にある場合は、ご家庭で除去できそうか試してみたくなると思います、しかし、犬もパニックを起こしており、強く咬まれて大きな事故になるおそれがあるため、決して無理はしないようにし、すぐに動物病院に電話をして対処法を指示してもらいましょう。

犬の咳でこんな症状が見られたら、すぐに病院へ

犬の咳でこんな症状が見られたら、すぐに病院へ

様子を見ていい犬の咳の状態

―人間にとっても咳はつらいものですが、どの程度なら様子を見ていいですか?

先述したように、一過性の生理的な咳の可能性もありますが、人ほど犬の咳は頻繁に起こりません。そのため、毎日のように咳が出るというような場合は、咳の頻度が高くなくても受診を検討されたほうが安心です。また、様子を見ているうちに犬の咳がどんどんひどくなってきた、咳以外の症状が現れたといった場合は、すぐに動物病院を受診するようにしましょう。

受診すべき犬の咳の状態、そのほかの症状

―動物病院を受診すべき咳やそのほかの症状について教えてください。

咳が止まらない、繰り返し咳き込む、咳以外の症状を伴う場合などは何らかの病気にかかっている可能性があるため、動物病院を受診するようにしましょう。

また、動物病院を受診せず放置してしまうと、ケンネルコフでは重症化して肺炎を起こし、次のような症状が現れます。

  • 発熱
  • 食欲減少
  • 呼吸が荒くなる

また、そのほかの病気では呼吸困難を起こし、下記の症状が現れ、命にかかわる可能性があります。

  • 呼吸数が多い
  • 開口呼吸をしている(口を開けて呼吸をしている)
  • チアノーゼを起こしている(舌や歯ぐきの色が紫になっている)
  • 横になって休めない
  • ぐったりしている

そのため、これらの症状が出ている場合は、夜間や休日であってもすぐに動物病院に連絡を入れ、獣医師の指示に従って自宅で対処をし、病院で処置を受けるようにしてください。

移動時の注意点

―病院への移動時で、飼い主が気を付けることはありますか?

犬が呼吸困難を起こしている場合、抱っこではなくハードタイプのキャリーに入れて運ぶほうが安全です。やむを得ず抱いて受診する際は、自分の両腕で包み込むように持ち上げ、犬の体勢を変えることなく胸を押さえないように抱きかかえるようにしましょう。仰向けに抱っこすることは決してしないようにします。

また、愛犬が呼吸困難を起こしている姿に気が動転してしまうかもしれませんが、なるべく興奮させないよう落ち着いて対処するようにしてください。

犬の咳の治療について

犬の咳の治療について

―病院ではどのような治療を行うのですか?

治療方法は病気によって異なります。

ケンネルコフの場合

ケンネルコフの場合はインターフェロンや抗生物質、咳止めの投与を行ったり、ネブライザーという機械を使った吸入治療を行ったりします。

異物誤飲

異物誤飲で食道閉塞を起こしている場合、消化ができる異物であれば内視鏡で胃に落とし込んだり、消化できないものであれば内視鏡を使って異物を口から取り出したり、食道を切開して異物を取り出す手術を行ったりします。

僧帽弁閉鎖不全症

僧帽弁閉鎖不全症の場合は、血管を広げる薬や利尿薬、強心剤などの投与を行い、症状を和らげたり病気の進行を遅らせたりするような治療を行います。これらの治療を行っていても病気は徐々に進行していくため、生涯に渡り投薬が必要になります。また、根治をするためには手術が必要ですが、高度な技術が必要になるため、一部の専門病院でしか手術を受けることができません。

気管虚脱

気管虚脱の場合、軽度であれば気管を広げる薬や咳止めの薬、炎症を抑える薬などの投与を行い、重度の場合には酸素吸入を行いますが、これらはすべて対症療法となります。そのため、根治をするためには潰れた気管を元の形に戻すような手術を行う必要がありますが、やはり高度な技術が必要になるため、一部の専門病院でしか手術を受けることができません。

自宅でのケア

―自宅での療養では、どんなことに注意したらいいのでしょうか?

基本的には獣医師の指示に従うようにしてください。症状が良くなったからといって自己判断で投薬を止めてしまう方が多いのですが、再発したり重症化したりする恐れがあるのでやめましょう。

また、僧帽弁閉鎖不全症や気管虚脱の場合は、治療中であっても呼吸困難を起こしてしまう可能性があります。その場合はいち早く動物病院で処置を受ける必要があるため、日ごろから愛犬の状態をよく観察するようにしましょう。

ケンネルコフの場合は、咳によってウイルスや細菌などが空気中に浮遊し、ほかの犬に感染することがあります。そのため、多頭飼育の場合は部屋を分けて未感染の犬と接触しないようにしてください。

まとめ

犬の咳を初めて聞いた多くの飼い主さんは「えずいている」と表現します。これは、何か喉に詰まったものを吐き出そうとするようなしぐさや音のように感じることが多いためですが、実際はそれが犬の咳です。

犬にも生理現象としての咳は起こるため、「咳=病気」ととらえる必要はありませんが、人に比べると生活の中で咳が出ることは少ないので、飼い主さんが「咳が出ているな」と気になるくらいの場合では受診が必要なケースが多く見られます。ちなみに、太ってくると喉が圧迫されて咳が出る場合もあります。どちらの場合でも、あまり様子を見すぎず受診されることをお勧めします。

記事の監修者:獣医師 三宅亜希

監修者:三宅 亜希

獣医師。日本で唯一の電話相談専門病院である「電話どうぶつ病院Anicli24」院長。電話による24時間365日の相談、健康診断や未病予防の啓発、獣医師向けのホスピタリティ講演などを中心に活動。

※原因部分は除く

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犬種別の保険料

  • 純血犬は、犬種により「小型犬」「中型犬」「大型犬」の3つに分類され、それぞれ保険料が異なります。犬種の区分については、「犬種分類表」をご確認ください。
  • ミックス犬の保険料は、年齢と体重により「小型犬」「中型犬」「大型犬」の3つに分類します。詳しくは、「犬種分類表」の「ミックス犬」の欄をご確認ください。
  • 猫の場合は、品種によらず純血猫もミックス猫もすべて同じ保険料です。
ア行~カ行犬の品種分類表
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サ行~ナ行
サ行
タ行
ナ行
ハ行~ワ行・その他
ハ行
マ行
ヤ行
ラ行
ワ行
ミックス犬(※1)
  • 8か月未満:6kg未満
  • 8か月以上:8kg未満
  • 8か月未満:6kg以上~20kg未満
  • 8か月以上:8kg以上~25kg未満
  • 8か月未満:20kg以上
  • 8か月以上:25kg以上

※ 「犬種分類表」に記載のない犬種の分類につきましては別途お問い合わせ下さい。