猫がしきりに体をかく原因とは?病院に連れて行くべき症状を獣医師が解説
最終更新日:2024年07月09日
猫が体をかくのは珍しくありません。しかし、かゆみが治まらず、かきむしって脱毛するなど、ほかの症状が見られるようになったら、どんな病気が考えられるのでしょうか。また、病院に連れて行くタイミング、予防や対処法などを獣医師さんに伺ってみました。
猫が普段と違って、やたらに体をかく、脱毛するといった動作の異常や症状の変化は、何かの病気のサインかもしれません。すぐに獣医師さんに相談しましょう。
猫が体をしきりにかく原因は?
―猫が体をかきむしる原因として、どんなことが考えられますか?
以下のような原因が挙げられます。
換毛期
猫の換毛期は春と秋です。換毛期の間、猫は毎日たくさんの被毛が抜けるので、違和感からかいてしまう場合があります。換毛期は特定の場所ではなく、全身のあちこちをかいてしまうのです。
ノミや蚊などの虫さされ
ノミや蚊に刺されるとかゆみを生じます。特にノミの唾液に対してアレルギーが起こるノミアレルギーは、かゆみが強烈で、背中を中心に皮膚炎を発症する場合があります。また、蚊は被毛の少ない部分を狙って刺すので、猫の鼻の頭や耳介(じかい)に発疹ができ、その部分を猫がかきむしってしまい、脱毛が起こるのです。
アレルギーやアトピー
猫のアレルギーは、頭部や顔・首を中心にかゆみが生じるのが特徴です。アレルギーの原因としては、ハウスダスト、花粉、食べているフードやおやつに含まれる食材などが挙げられます。
ストレス
ストレスから皮膚をかいたり、なめたりしてしまう心因性皮膚炎という病気があります。猫では腹部や脇腹、腰の辺りをかいたり、なめたりする場合が多く、一度治っても繰り返す傾向があります。
外耳炎
細菌やマラセチアの感染、耳ダニの寄生などが原因になり、猫の耳にかゆみが生じます。特に耳ダニの寄生が原因の場合はかゆみが強烈で、耳や頭の毛が抜けて傷がたくさんできます。
細菌感染、真菌感染
真菌感染は猫によく見られる感染症で、広い範囲の毛が急に抜けてしまうという症状が特徴です。脱毛は足や耳の先端、顔から始まる場合が多いのですが、全身のどこにでも発症します。真菌感染だけであれば、かゆみはほぼありませんが、細菌感染が併発すると、かゆみがひどくなり、体をかきむしって症状が悪化する場合があります。
寄生虫
ノミやセンコウヒゼンダニ(疥癬:かいせん)が猫に寄生すると、急激にかゆみを生じ、しきりに体をかく場合があります。特に疥癬はかゆみがひどく、かきむしって傷がたくさんでき、それと同時に細菌感染も起こります。疥癬は人にも容易にうつるので、注意が必要です。
猫のこんな症状、かゆがる様子が見られたらすぐ病院へ
―猫のかゆみを引き起こす病気として、どんなものがありますか?
外耳炎
猫の耳の中が赤くなる、ジクジクとただれたようになるなどの症状が見られます。悪化すると、耳が熱をもって腫れ、腐敗したような独特の臭いがする場合があります。外耳炎の原因が耳ダニの場合、乾燥した黒い耳垢が大量に出ます。
次のような症状があれば、すぐ病院へ連れて行きましょう。治療が遅れると、神経症状や耳血腫(じけっしゅ)が起こる可能性があります。
- 耳からいつもと違う匂いがする
- 耳が横を向いて垂れている
- 頭を振る
- 耳をしつこくかいている
- 耳の中がジクジクしている
アレルギー性皮膚炎やアトピー性皮膚炎
アレルギー性皮膚炎やアトピー性皮膚炎になると、特に発疹がないのに皮膚が赤くなり、頭部や顔、首などをかゆがります。かゆみは一年中続き、かきむしって広範囲に脱毛や傷ができる場合があります。こうした症状が現れた場合、原因として食物アレルギーを疑います。
次のような症状が猫に見られれば、早めに動物病院に連れて行きましょう。アレルギーの原因によっては、治療が長期間続く場合があります。
- 体を頻繁にかいている
- 体の広い範囲に傷がある
- 皮膚が赤い
- ブツブツがある
- 脱毛している
膿皮症(のうひしょう)
膿皮症になると、ブツブツの中心部分に膿(うみ)をもつ発疹ができます。これは、特に皮膚のやわらかい腹部や内股に多く見られます。かゆみはそれほどひどくありませんが、発疹がつぶれると膿が周辺に散り、同じような発疹が広がってしまうので注意が必要です。
処置が遅れると全身に広がる場合があるため、以下のような症状が見られれば、早めに病院に連れて行きましょう。
- 猫の体にブツブツがある
- あまりかゆがらないが毛が抜ける
疥癬
疥癬は、皮膚の中にトンネルを掘り生活するダニで、猫だけでなく人や同居動物にもうつります。患部は皮膚の表面に赤い発疹が出る程度でわかりにくいのですが、かゆみが強烈なので、ひっきりなしに体をかきます。
疥癬は、治療にとても時間がかかる病気です。以下のような症状があれば、緊急性が高いと言えますので、早めに猫を病院に連れて行きましょう。
- 猫が体をかきむしっている
- 猫に赤い発疹がある
- 猫にかさぶたのようなふけが出る
- 飼い主や同居動物にもかゆみが出ている
マラセチア性皮膚炎
猫のかゆみの原因として、マラセチア性皮膚炎はあまり見られませんが、可能性はゼロではありません。マラセチア性皮膚炎は、外耳炎の原因になる場合があります。かゆみが非常に強いため、かきむしってしまい、耳や頭部にひどい傷ができるのです。
症状は、皮膚がベタベタする、酸っぱい匂いがする、フケが出るといったものが挙げられます。人や同居動物にはうつりませんが、一度かかると再発しやすい傾向にある病気です。緊急性はそれほど高くありませんが、しっかり治療しなければなりません。
皮膚糸状菌症
皮膚糸状菌症は、猫の皮膚病の中でも治療に時間がかかる疾患で、人や同居動物にもうつるおそれがあります。皮膚糸状菌症のみの感染の場合、かゆみはほとんどありません。しかし、同じ部位に細菌が二次感染すると、かゆみがひどくなります。そして、広い範囲で円形脱毛が起こり、脱毛部分にフケがたくさん出ます。
猫がかゆがらなくても、以下に挙げるような症状があれば、緊急性が高いため、すぐ病院に連れて行きましょう。
- 円形脱毛
- まとまった脱毛が急激に起こる
- 脱毛部にフケ
猫のかゆみは感染するの?
疥癬と皮膚糸状菌症は、猫から人、別の猫へと感染する
―猫のかゆみは、人にうつることはありますか?
猫のかゆみの原因になる病気の中で、「疥癬」と「皮膚糸状菌症」は人にうつります。さらに、人から人へうつる場合もあります。
―猫のかゆみは、ほかの猫にうつりますか?
人への感染同様、疥癬と皮膚糸状菌症は、ほかの猫にうつるおそれがあります。これらの感染が確認された、または感染が疑われる猫には、接触しないようにしてください。もし感染している猫に触れた場合は、すぐに手を洗い、服を着替えてから、ほかの猫を触るようにしましょう。
猫のかゆみの対処法・応急処置
―猫のかゆみはどのように対処、治療すればいいのですか?
換毛期
ブラッシングをこまめに行い、抜け毛をできるだけ取ってあげましょう。
ノミや蚊などの虫さされ
ノミには予防薬を定期的に投与し、寄生を予防します。蚊の防除は困難ですが、最近ではペットにも安全なスプレーが販売されています。蚊が室内に入らないように、網戸や蚊帳を利用するのもいいでしょう。
アレルギーやアトピー
アレルギーやアトピーの原因は、環境(ハウスダスト・花粉・カビ・昆虫類など)と食物に分類できます。治療の第一歩は、原因を突き止めることです。アレルギー検査を受けると判明する場合もあります。
かゆみが出ているようであれば、かゆみ止めの薬を投与します。食物アレルギーの場合は、その猫に適した食物アレルギー用のフードへの変更が必要です。
ストレス
ストレスから起こる猫のかゆみや脱毛は、まずストレスの原因を見つけることが大切です。そのうえで、ストレスを緩和するフード、気持ちを落ち着けるフェロモン剤や内服薬を投与します。また、実際に傷ができている箇所には消炎剤を用います。
外耳炎
外耳炎の原因に合わせて、点耳薬を投与します。猫のかゆみや痛みが強い場合は、内服薬を併用する場合もあります。
細菌感染や真菌感染
抗生物質や抗真菌薬を投与します。さらに薬浴を行うと効果的です。
寄生虫
かゆみを引き起こす原因になる寄生虫は、主にノミと疥癬です。猫に外部寄生虫の駆除・予防薬を定期的に投与して、寄生を防ぎます。
ノミによるかゆみが猫に出ている場合は、ノミの駆除・予防、そして、かゆみ止めの投与を行います。疥癬の場合は、ダニの駆除、かゆみを緩和する薬の投与を行います。
―家庭でできる対処法・応急処置を教えてください。
猫が体をかきむしる場合は、放置すると悪化します。悪化を防ぐためには、以下のような対処を施しましょう。応急処置を施したら、早めに病院を受診してください。
- 爪を切る
- エリザベスカラーを着ける
- 服を着せる
- 体を冷やす
―受診に際し、どのような準備をすればいいのですか?
症状がいつから始まったのか、どのような状態だったのかをメモしておきましょう。また、食べているフードやおやつ、使っているノミ・ダニ駆除薬の名称がわかるようにしてください。
―治療中の食事は、どのようにしたらいいのでしょうか?
治療中の食事は獣医師の指示に従いましょう。特に食物アレルギーの場合は、指示された食べ物以外を猫に与えないようにしてください。猫が指示された食べ物をどうしても食べない場合は、別のフードに変更する前に獣医師に相談しましょう。
―予防法や日ごろから気を付けるべきことを教えてください。
ブラッシングを始め、猫の被毛のケアをできるだけこまめに行いましょう。血行が良くなり、被毛に付着した汚れを除去するだけでなく、毛玉ができにくくなります。また、皮膚のトラブルを発見しやすくなります。
しかしながら、アレルギーの予防は難しいと言えます。アレルギーを発症した場合は、原因をできるだけ早く突き止め、猫が接触しないようにするのが一番です。
まとめ
猫は犬に比べて、投薬やシャンプーを苦手とする子が多い傾向にあります。早期発見、早期治療のため、こまめにブラッシングを行ったり、ノミ・ダニの予防薬を定期的に投与したりするようにしましょう。
そのほか気になる猫の皮膚・アレルギーの病気については、獣医師監修の「猫の疾患 皮膚・アレルギーの病気」をご覧ください。
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執筆者:平松 育子
獣医師。『ふくふく動物病院』院長。京都市生まれ。山口大学農学部獣医学科(現 山口大学共同獣医学部)卒業。山口県内の複数の動物病院勤務を経て、2006年、山口市阿知須にて『ふくふく動物病院』を開業。
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