猫にカビが生える!?病院に連れて行くべき症状を獣医師が解説
最終更新日:2024年07月09日
猫の皮膚にやや広い範囲で脱毛やフケが見られたら、皮膚糸状菌症(ひふしじょうきんしょう)というカビによる病気が疑われます。この病気の原因や病院に連れて行くタイミング、予防や対処法などを獣医師さんに伺いました。
猫の皮膚や被毛の様子がいつもと違う、気になる症状が見られたら、すぐに獣医師さんに相談しましょう。
猫にカビってどういうこと!?
―猫にカビが生えるという話を聞いたことがあるのですが、お風呂の黒カビのようなものが猫に生えるのでしょうか?
一般的に「カビ」と言いますが、専門用語では真菌と言います。真菌の仲間は非常に多く、体に悪影響を及ぼさないものから害をもたらすものまであります。
猫を始めとする動物にカビが生えた状態を「真菌症」と呼び、真菌症を引き起こす病原真菌の主体は、糸状菌と酵母様真菌です。
これらの中で、猫に害を与えるものは、ほかの動物にも非常にうつりやすい糸状菌です。糸状菌の種類によっては、人にもうつる場合があります。
猫に寄生するカビの病気とは?
皮膚糸状菌症の症状
広範囲にわたる脱毛やフケが見られ、ほかの猫にもうつる
―猫の体にカビが寄生すると、どんな病気を引き起こすのですか?
猫の真菌症としては、「クリプトコッカス症」「カンジダ症」「ヒトプラズマ症」「皮膚糸状菌症」の4つが代表的です。
これらの中で、よく見られるのは皮膚糸状菌症です。皮膚に糸状菌が感染すると、脱毛やフケが見られます。脱毛はやや広い範囲の被毛が簡単に抜けてしまうのが特徴です。また、脱毛部と脱毛していない部分の境目が赤くなり、フケが出ることもあります。特に手や耳、鼻の上などから発症することが多く、徐々に全身へと広がります。
同居している猫がいる場合、非常にうつりやすいため注意が必要です。
皮膚糸状菌症は、猫から人にうつる! うつったら皮膚科を受診
―皮膚糸状菌症に感染した猫と同居する私たち人間にもうつるのですか?
猫の皮膚糸状菌は、同居している私たち人間にもうつる人獣共通感染症です。
特に抵抗力の弱い子供や高齢者、病気治療中の方、免疫関連疾患の方は感染するリスクが高いと言われています。このような感染リスクの高い方たちに該当しなくても、猫を抱っこする、一緒に寝るなど、接触する時間が長い方も要注意です。
感染した場合、ワームリングと呼ばれる赤い環状の発疹が見られます。このような症状が出た場合は、早めに皮膚科を受診するようにしてください。
猫の皮膚糸状菌症の原因とは?
―猫に皮膚糸状菌症を引き起こす原因としては、どんなものが考えられますか?
皮膚糸状菌症を引き起こす原因として考えられるのは、ストレスや抵抗力の低下、皮膚糸状菌症を発症している動物との接触です。
それ以外の原因としては、ほかの皮膚炎の治療をしている、そのほかの病気の治療で免疫を抑制するような薬を投与しているなどが考えられます。
―皮膚糸状菌症にかかりやすい猫種、特徴について教えてください。
皮膚糸状菌症は、子猫や高齢猫、長毛種の猫がかかりやすいと言われています。また、外に出る猫も皮膚糸状菌症にかかっている動物に接触する機会があるため、完全室内飼育の猫に比べるとかかりやすいでしょう。
猫カビでこんな症状が見られたらすぐ病院へ
受診を強く勧める場合
―受診すべき皮膚糸状菌症の見分け方、特に注意が必要な症状を教えてください。
猫が皮膚糸状菌症にかかっているかどうかの判断は、次のような症状がないかをチェックしてみましょう。
- フケが多い
- 毛が簡単に抜ける
- 同じ場所の毛がまとまって抜ける
- 皮膚が赤くなっている
- かさぶたができている
- 体のあちこちにハゲがある
- 急に広い範囲で毛が抜けた
- 症状のわりにかゆがらない
チェックの数が多いほど症状は重いと言えます。
「そのうち治るかもしれない」「猫自身が気にしていないから大丈夫だろう」と様子を見ていると、脱毛を始めとする症状があっという間に全身へと広がります。
猫の皮膚糸状菌症の対処法
―猫が皮膚糸状菌症を発症したら、病院ではどのような対処を行うのですか?
病院では次のような対処を行います。
発症している部分の被毛を除去する
皮膚糸状菌症を発症している部分は、フケがたくさんついていたり、被毛を引っ張ると簡単に抜けたりします。このようなフケや抜け毛は放置せず、できる限りすべて取り除きます。
全身のあちこちに脱毛部位がある場合は、全身の被毛をバリカンで刈ることもあります。
全身のシャンプー
糸状菌は胞子を飛ばします。この胞子が猫の全身の被毛や生活環境にあるものに付着し、感染が拡大していきます。そのため、猫の皮膚糸状菌の病変部分が1か所であっても、全身に感染しているものと考えてシャンプーを行うことがほとんどです。シャンプーは皮膚糸状菌治療専用のシャンプーを使います。
発症している部分の消毒
皮膚糸状菌の感染部位を消毒薬で消毒します。全身を清潔にした後に行うことが理想です。クロルヘキシジンを始めとした、刺激が少なくしっかり消毒できる消毒液を使います。
外用薬
抗真菌作用のある外用薬を使用します。特にクリームを使用する場合、病変部位をぬるま湯に浸したガーゼやタオルなどでこすらないように拭いてから、塗布します。
タオルを用いるとタオルの消毒が必要になるので、できれば使い捨てのガーゼを使用し、塗布後はビニール袋に入れて処分することをお勧めします。
内服薬
抗真菌作用のある内服薬を投与します。
家庭内の対処法
―家庭内でできることはありますか?
家庭内でできることで最も大切なことは、まず人や同居動物への感染リスクを減らし、糸状菌に感染した猫の被毛やフケなど、感染源となるものを最小限にすることです。そのためには、以下に挙げるような対策をしていきましょう。
隔離
感染した猫が家中を歩き回ると、糸状菌が広がりますので、フローリングのみで家具が少ない部屋に猫を隔離します。これは、じゅうたんや畳、布製品、移動できない家具をたくさん置いている部屋だと掃除が不十分になるからです。個室での隔離が難しい場合はケージに入れましょう。
猫が使用していた布製品やおもちゃを消毒・処分
猫が使用していたタオルやベッド、おもちゃなどは処分するか、しっかり消毒します。
消毒は次亜塩素酸ナトリウムを用います。ただし、色柄物は脱色してしまうため注意してください。
隅々まで掃除
部屋の中には猫のフケや抜けた被毛がたくさん落ちています。床、壁紙、カーテン、家具などは徹底的に掃除・消毒します。
掃除の際は、掃除機や粘着式カーペットクリーナー、掃除用ワイパーなどを用います。最初に掃除機をかけると、排気口から出た風でフケなどが舞い上がってしまうため、掃除機は床を拭いた後にかけましょう。床を拭き、掃除機をかけた後に消毒薬を用いて床や壁を拭いてください。
―市販薬もあるようですが、家庭内だけで対処できるものでしょうか?
市販薬でも効果はあります。ただ、薬は副反応が起こる場合があるため、動物病院でしっかり診断・処方してもらうことをお勧めします。
猫の皮膚糸状菌症の予防法
猫のストレスを抑制し、室内を清潔に
―愛猫が皮膚糸状菌症にならないようにするには、どうしたらいいですか?
糸状菌感染が起こるかどうかは、皮膚の抵抗力が大きく関係しています。猫にストレスがあまりかからないようにし、体調不良や皮膚病変がある場合は早めに動物病院を受診しましょう。
猫自身の体調管理と合わせて、生活環境を清潔にすることも心がけてください。また、感染動物との接触を避けるために、猫は室内飼育にしたほうがいいでしょう。
まとめ
猫の皮膚糸状菌症は全身に感染が広がりやすく、治療に長期間を要する場合があります。また、猫だけではなく人に感染する可能性もあります。できるだけ猫は室内で飼育し、気になる病変があれば早めに動物病院を受診してください。猫と触れ合った後は手を洗い、部屋の隅々まで掃除をして清潔を保つようにしましょう。
そのほか気になる猫の体や行動の異常・変化については、獣医師監修の「猫の症状」を併せてご覧ください。
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執筆者:平松 育子
獣医師。『ふくふく動物病院』院長。京都市生まれ。山口大学農学部獣医学科(現 山口大学共同獣医学部)卒業。山口県内の複数の動物病院勤務を経て、2006年、山口市阿知須にて『ふくふく動物病院』を開業。
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