猫の脱臼の症状と原因、治療法について

最終更新日:2024年07月09日

本コンテンツは獣医師2名による確認を行い、制作をしております。

猫の脱臼ってどんな病気?

関節とは、2個以上の骨が結合している部分を指します。関節は関節包と呼ばれる袋に覆われており、内部に関節腔と呼ばれる空間があります。この関節腔には滑液という液体が少し入っており、骨同士の接触面(関節面と言います)の摩擦を和らげています。

また、関節の周りには靱帯という丈夫な紐状の構造があり、関節を補強したり、関節が動きすぎたりしないようにしています。さらに、関節の中には軟骨でできている関節半月、関節円盤というものがあり、関節面同士の接触面を大きくして骨同士が外れないようにしています。

脱臼とは関節を構成する骨同士の関節面が、正常に稼働できる範囲を越えて、骨同士の接続を失い、外れてしまった状態を言います。その程度に応じて、「完全脱臼」と「亜脱臼」に分類されます。関節面同士の適合性が完全に失われた場合を完全脱臼、部分的に関節面の一部が接触している場合を亜脱臼と呼びます。脱臼は、犬猫を対象とした動物病院ではよく見かける疾患です。

猫の脱臼の原因と症状

どうして症状が出るの?原因は?

原因としては、外傷性脱臼と病的脱臼に分類することができます。

外傷性脱臼

外傷性脱臼とは、交通事故や高所からの落下などの大きな外力が加わることにより、生じる脱臼です。外傷性脱臼では、関節を構成する構造物に異常が認められるため、骨折や腱断裂、靱帯断裂、関節包の剥離が生じることにより、脱臼に至ります。

病的脱臼

病的脱臼とは、副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群※)のような筋肉の張力が低下する病気や筋炎、脳疾患などの神経の異常、あるいは、関節疾患(緩みや関節形成不全)や変形性関節症などにより、関節が不安定になることで至った脱臼を指します。

※副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)では、ステロイドホルモンが過剰に分泌され、筋肉を構成するタンパク質の分解を促進し、筋力が低下します。

どんな猫が脱臼しやすいの?

原因の項でも述べたように、脱臼の原因は外傷性と病的がありますが、猫では脱臼の原因として外傷が非常に多く見られます。そのため、交通事故や高所からの落下に遭遇しやすい状況にある、屋外で生活している猫は脱臼しやすいと言えます。

また、股関節形成不全の好発猫種であるシャムメイン・クーンでは、関節の形成不全があり、股関節が脱臼しやすいのです。

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猫の脱臼の特徴とチェック項目

股関節は、猫の外傷性脱臼が最も発生する可能性が高い関節で、すべての関節脱臼の90%を占めます。多くの脱臼は片側性ですが、猫では9%が両側性です。また、脱臼の発症には強力な外力がかかるので、約50%の症例で胸部外傷を始めとする大きな損傷が併発しています。

症状としては、脱臼している後ろ足の跛行(足を引きずる様子)が認められることが多くあります。股関節脱臼の脱臼方向は、73%の猫で頭背側方向脱臼、つまり、頭側、かつ背中側に外れてしまう状態です。このような状態の場合、足の長さが脱臼していない側に比較して短くなり、太ももが内側に入り込む様子が確認されます。

  • 外傷を受傷する可能性があるか
  • 後ろ足を引きずる様子がある
  • 足の長さが異なる

猫の脱臼はどうやって診断されるの?

詳細な触診を行います。関節を動かす際に、猫が明らかに嫌がるような反応があったり、骨同士がこすれる音(小石が擦れるような音なので、「礫音」(れきおん)と呼びます)が検出されたりします。

また、関節によっては周りの靱帯や腱の断裂、関節包の剥離が起こるので、通常よりも関節の動かせる範囲が広くなることで、脱臼を検出することができます。触診の結果に基づいて、異常のある部位でレントゲン写真の撮影を行い、脱臼の有無を確認し、確定診断を行います。

猫の脱臼の治療にはどんな方法があるの?

猫の脱臼の治療と予防

関節脱臼には、大きく分けると3つの治療法があります。

非観血的整復法

非観血的整復法は、切らずに外れている関節をはめる方法です。切らずに治すので負担は少ないですが、全身麻酔が必要になります。また、成功率は決して高いとは言えません。股関節脱臼の非観血的整復法の成功率は30~85%とばらつきがあります。

脱臼してから時間が経てば経つほど、周りの筋肉が短くなり、脱臼した関節周辺が線維化し、硬くなることでより整復が困難となります。一般的に、脱臼をはめた後は再脱臼を予防する目的で、添え木や包帯、吊り包帯などの固定が必要になります。股関節形成不全があったり、重度の変形性関節症、関節の骨折を伴っていたりする場合には成功率が下がります。

観血的整復法

観血的整復法は、脱臼を非観血的に整復することが困難、あるいは不可能である場合、再脱臼を繰り返す場合には、手術による治療が必要です。

手術としては、いくつかの方法が存在します。剥がれてしまった関節包を縫う関節包縫合術、骨に設置したねじ同士を糸で結びつけるスーチャーアンカー法、関節を針金で動かない様に固定する経関節ピン固定法、靱帯の走行に合わせて糸で結びつける靱帯再建術・置換術といった方法が挙げられます。

救済的手術

救済的手術は、関節を整復することが困難、あるいは変形性関節症が重度に進み、痛みのコントロールができない場合に行います。具体的な方法としては、股関節や肩関節に対し、切除関節形成術という方法があります。これは骨から関節面のみを切除して、周りの靱帯、腱、筋肉のみで安定化させる方法です。

また、最近では、股関節では関節を切除した後に、人工関節を入れる股関節全置換術という方法も猫で行えるようになりました。さらに、手根関節、肩関節、足根関節については、関節を切除して骨同士を金属製の板とねじ(プレートスクリュー)で固定する関節固定術という方法があります。

猫の脱臼は治せるの?

脱臼は治すことができますが、それには条件があります。それは、関節に脱臼しやすくなるような病的な状態が存在しないこと、そして、脱臼してから、あまり時間が経っていないことが理想的です。そのような条件であれば、非観血的整復法や観血的整復法により、治る可能性があります。

しかしながら、そのような条件を満たさない場合には治療の成功率は下がってしまいます。

そのため、切除関節形成術や人工関節、あるいは関節固定術といった救済的な治療により、関節自体は治せないですが、痛みなく歩行が可能な状態にすることを目指します。

どうやって予防したらいいの?

猫の脱臼は、多くが外傷性によるものです。そこで、外傷を避けるような生活にする必要があります。病気を予防という観点から、猫を屋外に放すのは避けましょう。

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記事監修:ペットメディカルサポート株式会社

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