猫のてんかんの症状と原因、治療法について
最終更新日:2024年07月09日
- 猫のてんかんってどんな病気?
- どうして症状が出るの?原因は?
- 猫のてんかんの症状とチェック項目
- 猫のてんかんはどうやって診断されるの?
- 猫のてんかんの治療にはどんな方法があるの?
- 症状を緩和するにはどうしたらいいの?
猫のてんかんってどんな病気?
てんかんとは脳が異常な活動を起こし、痙攣(けいれん)といった異常な動きが起こる病気です。全身を震わせたり、手足を突っ張ってのけぞったり、手足をバタバタと動かしたりするなどさまざまな症状が起こります。
てんかんは何らかの前兆が起きた後にけいれんが出る場合がほとんどですが、よく観察しておかないと気付けないことがあります。時間的には30秒~1分ぐらいが多いのですが、それ以上の時間でけいれんが続くと危険な状態になるおそれがあります。
なお、犬は100頭に1頭の割合でてんかんを発症するとされていますが、猫の場合はまれと言われています。
どうして症状が出るの?原因は?
脳の中は常に微量な電気が流れていて、通常は、この電気が回路の中をスムーズに流れています。そして、異常な流れ(脳内の電気回路のショート)を起こしている回路がある場合、正常に機能している神経細胞はこの異常な流れを修正するようにしています。ところが、ストレスや環境の変化などの影響を受けると、脳内の電気回路のショートが広がってしまう場合があります。このときにてんかん発作が起こるのです。
てんかん発作は1回だけで、その後、一生起きないこともありますが、月に何回も起こす場合もあり、個体差があります。繰り返し起こる場合は、発作が起こる頻度が進行していく可能性が高くなります。また、ひどくなると重積という状態が起こり、てんかん発作が止まらなくなってしまい、早急な処置を行わないと取り返しのつかない事態に陥る場合があります。
猫のてんかんの症状とチェック項目
猫に次のような症状があれば、てんかんの疑いがあります。早めに動物病院を受診しましょう。
- 体の一部がピクピクしている
- 何もない空中をじっと見ている
- 泡を吹いている
- 吐く
- 歯をカチカチ言わせている
- ふらふらしている
- 焦点が合わない
- 倒れて意識がない
- 失禁した状態で倒れる
- 手足を犬かきのように動かしながら倒れている
- 背中を強く反らせた状態で、手足を突っ張る
猫のてんかんはどうやって診断されるの?
猫のてんかんの診断は以下のように行います。
問診
てんかんの診断で重要なのは、問診です。下記のようなことを細かく聞きます。
- いつから、てんかんを発症したのか
- どのような症状だったのか
- どのくらいの時間、てんかんが続いたのか
- てんかんの症状が治まった後の経過
- 初めてのてんかんか
- てんかんの症状が何回もあるならば、どのくらいのペースか
- 失禁はあるか
- 交通事故や高い所から落ちたことがあるか
脳波検査
てんかんは脳の異常な活動が原因で起こります。そのため、脳の活動を調べる脳波検査を行うことがあります。
検査は1時間ぐらいかかり、猫はその間じっとしていられないので、全身麻酔をかけなければなりません。
検査によって、てんかんの原因となる異常な活動が猫の脳内で起こっていると、異常な波形が出現します。しかし、てんかんが起こってから時間が経ち、脳内の異常な活動が治まってしまうと、それを確認できなくなります。異常波形が見つかれば、てんかんと診断できますが、症状的にてんかんと言える場合でも、脳波上異常が見つからなければ、てんかんの可能性があると診断され、てんかんと確定できないことがあります。
MRI
MRIは、磁気共鳴画像診断装置の略で、強力な磁石でできた筒状の装置の中に入り、磁気の力を利用して体内の臓器の状態を確認する検査です。MRIは体内のさまざまな病変を見つけられますが、中でも脳や脊髄の病変を見つけることに適した検査です。猫が少しでも動くと検査が正確にできませんので、全身麻酔下で行います。
PET-CT検査
PET-CTとは、陽電子放出断層撮影の略で、放射線を含む薬剤を投与して撮影を行う検査です。放射線を用いますが、体に大きな害のない放射線を用いますので、放射線被ばくの心配はありません。CT検査は腫瘍といった形の異常を確認できますが、PET-CT検査は、ブドウ糖代謝といった機能から異常個所を見つけ出します。
この検査も前日から絶食を始めとする準備が必要であり、安静状態を保つうえで、猫にやはり全身麻酔が必要です。
血液検査
血液一般検査や生化学検査を行い、てんかんに似た症状を起こすほかの病気、例えば、腎不全や肝機能の異常、低血糖などが猫にないかを確認します。
神経学的検査
神経学的検査は、姿勢反応や脊髄反射検査、脳神経検査などの検査を猫に行い、神経症状が起きている部分が猫のどこにあるのかを確認します。この検査は、特に大きな道具を必要とせず、簡便に行えます。
一方、脳波検査、MRI検査、PET-CT検査などは、実施できる施設が少なく、また、実際に検査が難しい場合があります。そのため、てんかんの基本的な検査は、問診、血液検査、神経学的検査で行う場合が多いでしょう。
猫のてんかんの治療にはどんな方法があるの?
てんかんの治療は主に内服薬で行います。
フェノバルビタール
フェノバルビタールは、昔からてんかんを起こした動物にしばしば投与される薬です。金額が安く、手に入りやすいことが特徴です。投与初期の注意点は以下のとおりです。
- ボーっとすることが多い
- 動きが緩慢になる
- ふらふらする
- 食欲旺盛になる
また、長期間投与する場合は、下記の点に注意が必要です。
- 食欲増加による肥満
- 肝障害
ゾニサミド
ゾニサミドは、フェノバルビタールや臭化カリウム(※)による治療で効果があまり認められなかったときに投与を検討する薬です。この薬の特徴は、副作用があまり見られないことです。
※注意:犬のてんかんで使用される「臭化カリウム」は、猫の場合、投与禁忌です。
ジアゼパム
猫のてんかんには、ジアゼパムを投与できます。猫は、犬と異なり、ジアゼパムを長期投与が可能ですが、中には投与後に急性肝壊死を起こす場合があります。そのため、投与前や投与中の血液検査が必要です。
猫のてんかんは治せるの?
猫に限らず、てんかんは残念ながら根本的に治せる病気ではありません。しかし、てんかんの治療薬を投与すれば、けいれんが起こる回数が減り、また、1回の発作時間が短くなれば、生活の質はぐっと上がります。
症状を緩和するにはどうしたらいいの?
てんかんが起こる前には、多くの場合、次に挙げるような「前兆」が猫に見られます。
- やけに落ち着きがない
- 普段おとなしいのにハイテンションになる
- 意味もなく走り回る
- ボーっと座っている
- 何も飛んでいないのに飛んでいる虫を追いかけるような素振りを見せる
- やたらに食べる
このような状況は、猫にてんかんが起こる前兆である場合が多いので、気を付けましょう。また、てんかんが起こるサイクルはおおよそ決まっている場合が多いので、日記を書くのもいいでしょう。
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執筆者:平松 育子
獣医師。『ふくふく動物病院』院長。京都市生まれ。山口大学農学部獣医学科(現 山口大学共同獣医学部)卒業。山口県内の複数の動物病院勤務を経て、2006年、山口市阿知須にて『ふくふく動物病院』を開業。
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