猫の緑内障の症状と原因、治療法について
最終更新日:2024年07月26日
本コンテンツは獣医師2名による確認を行い、制作をしております。
- 猫の緑内障ってどんな病気?
- どうして症状が出るの? 原因は?
- どんな猫が緑内障にかかりやすいの?
- 猫の緑内障の症状とチェック項目
- 猫の緑内障の治療にはどんな方法があるの?
- どうやって予防したらいいの? 症状を緩和するにはどうしたらいいの?
猫の緑内障ってどんな病気?
緑内障とは、正常な視力や健康な眼の状態を損なうほどに目の中の圧力(眼圧)が上昇する眼の疾患です。眼圧が上昇することにより、眼球の奥の視神経や網膜に不可逆的なダメージが生じ、視力低下や失明に至ります。さらに眼球の腫大や角膜に障害が生じることで治療がより困難になり、疼痛(とうつう:うずくように痛むこと)も生じます。
眼圧が上昇するメカニズム
眼には、ピントを調整するレンズ(水晶体)と角膜との間に、前眼房と呼ばれるドーム状の構造があります。前眼房は眼房水という水で満たされており、これにより眼圧が生じるのです。眼圧は前眼房内の圧力です。
眼房水は毛様体と呼ばれる蛇口から産み出され、角膜や水晶体に栄養や酸素を運び、老廃物を排出する働きを担っています。産み出された眼房水は虹彩と水晶体の間を抜け、前眼房を満たし、虹彩と角膜から構成されている隅角へと流れます。
このように隅角は排水口の役割をしているのですが、何らかの障害により眼房水の排出に異常を来すと、前眼房の中に眼房水がたまり過ぎてしまい、前眼房内の圧力である眼圧の上昇が起こるのです。
どうして症状が出るの?原因は?
緑内障は、その原因により原発緑内障と続発緑内障に分けることができます。
原発緑内障
原発緑内障は排水口である隅角自体の異常で起こり、ふたつのタイプがあります。それらは、排水口にグリコサミノグリカンといった老廃物が沈着して流れが悪くなって生じる「開放隅角緑内障」と、もともと隅角自体が閉じている、あるいは狭くてさらに老廃物が目詰まりを起こす「閉塞隅角緑内障」です。
隅角自体が狭くなる原因は加齢によるものです。また、遺伝性の原因も考えられ、眼球の形成異常で隅角に異常があるために起こります。
続発緑内障
続発緑内障は、隅角の異常に関係なく、眼球内や全身性の何らかの病気が原因となって生じる緑内障のことです。
猫は、犬と比べて原発緑内障の発生がほとんどなく、続発緑内障が一般的です。実際に猫1100頭の緑内障のうち、原発隅角緑内障は8頭であったと報告されています。
猫の続発緑内障を誘発させる主な原因は、猫エイズ(FIV)や猫白血病、猫伝染性腹膜炎などのウイルス感染、トキソプラズマ症といった寄生虫感染、自己免疫疾患による眼全体に炎症を生じる「ぶどう膜炎」です。ぶどう膜炎では眼房水中のタンパク質濃度が上がり、粘稠度合いが高まることで隅角から流れづらくなります。
ぶどう膜炎のより詳しい原因、症状、予防については獣医師監修の「猫のぶどう膜炎」を併せてご覧ください。
このほか、悪性黒色腫やリンパ腫といった眼球内腫瘍、水晶体を巻き込む外傷、前眼房出血、外傷、高血圧、前方水晶体脱臼など続発緑内障の原因として挙げられます。これらは水晶体の異常により隅角が狭くなります。
どんな猫が緑内障にかかりやすいの?
先天緑内障、ならびに原発緑内障を起こしやすい猫種としてはシャム、ペルシャ、ヨーロピアン・ショート・ヘア、バーミーズが報告されています。
また、猫はウイルスや寄生虫感染によるぶどう膜炎や外傷に伴う続発緑内障が多いので、屋外に外出する猫は、かかりやすいと考えられます。
猫の緑内障の症状とチェック項目
緑内障では眼圧が高まることにより視神経が圧迫され、視力が失われてしまいます。猫の視力の程度を判定するは困難ですが、失明の判定は可能です。
眼圧が高まると眼全体が膨張する牛眼と呼ばれる状態になります。また、眼全体が拡張されるので、眼の表面を走る神経が刺激され、痛みのため眼をまぶしそうにする羞明(しゅうめい)や眼の周辺を擦るようになったり、元気や食欲がなくなったりします。
猫の緑内障で明らかな眼圧上昇が認められるときには、すでに病状が重篤で、多くの場合、視覚障害が生じています。
まとめると、以下の症状に当てはまる場合、緑内障である可能性が考えられます。
・目が見えなくなるので、最近じっとしてあまり動かない ・眼を気にするような様子が見られる ・眼を気にするような様子が見られる ・まぶしそうに眼を細める ・眼の周辺を擦る ・眼の周りを触ると怒る ・眼全体が大きくなっている ・白目が充血して赤くなる
猫の緑内障はどうやって診断されるの?
診断方法としては眼圧測定、一般眼科検査によって行われます。眼圧測定は塩酸オキシブプロカイン点眼薬による角膜表面麻酔点眼処置を行った後に、測定機器の先端を眼に押し当てて行います。
また、視覚が消失しているか否かで治療の緊急性が変わるため、視覚の有無の判断は重要です。この検査として、猫の目の前に突然手をかざして、瞬きをするかどうかを判定する威嚇瞬き反射や、落ちても音のしない綿球を落下させて、その様子を眼で追うかを見る綿球落下試験を行います。
猫の緑内障の治療にはどんな方法があるの?
猫の緑内障には、内科的治療と外科的治療があります。猫の場合は続発緑内障がほとんどなので、まずは、その原因となっている病気の治療を行います。しかし、残念ながら猫エイズや猫白血病、猫伝染性腹膜炎などのウイルス感染については、治療法が存在しません。
内科的治療
原因が自己免疫疾患の場合には、免疫抑制剤によって異常な免疫反応を抑えることが可能です。また眼房水の産生を抑えて眼圧をさげる眼降下材の投与が考えられますが、多くの場合、それほど効果がありません。さらに、尿として体内から水分を排泄する利尿剤の投与は効果的ですが、腎臓に負担がかかるので注意が必要です。
外科的治療
特に猫の場合、内科的治療は、効果的でないこと、さらに続発性緑内障が多い中で原因となる基礎疾患が除去できないことが多いため、外科的治療が選択されます。
悪性黒色腫、リンパ腫といった眼球内腫瘍の場合には、腫瘍だけを選択的に眼から切除することが困難なので、眼球自体を切除する必要があります(眼球摘出術)。
猫の緑内障は治せるの?
水晶体脱臼による緑内障の場合は、脱臼した水晶体が邪魔をして眼房水が排出されないことで起こります。そのため、水晶体を整復できれば治療は可能です。
それ以外の猫の緑内障に対しては、さまざまな点眼治療がされていますが、今のところ効果を望めるものが少ないというのが、獣医眼科専門医にとって共通した見解です。しかしながら、視覚に障害があっても元気にしている場合があるので、疼痛緩和につながっていると言えるのかもしれません。
どうやって予防したらいいの? 症状を緩和するにはどうしたらいいの?
原因でも述べたように、屋外に出る猫は感染症や外傷に遭遇する機会が多いため、緑内障にかかる可能性が高いと言えます。そのため、猫を室内飼いにすることが、予防になると考えられます。
さらに、定期検診で早期発見し、原因が除去できる場合、視力の保護や回復につながる可能性があります。
参考
Czederpilts JMC et al., J Am Vet Med Assoc 227: 1434-1441, 2001
Dietrich U., et al. Clin. Tech. Small. Anim Pract 20: 108-116, 2005
Jacobi, SD., Richard R. Vet Opthalmol 11, 162-165, 2008.
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Whitley DR., et al. Vet Clin North Am Small Anim Pract 14; 1271-1287, 1984
Glaze MB. Clin Tech Small Anim Plact, 20: 74-82, 2005
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