猫のぶどう膜炎の症状と原因、治療法について
最終更新日:2024年07月09日
本コンテンツは獣医師2名による確認を行い、制作をしております。
- 猫のぶどう膜炎ってどんな病気?
- どうして症状が出るの? 原因は?
- どんな猫がぶどう膜炎にかかりやすいの?
- 猫のぶどう膜炎の症状とチェック項目
- 猫のぶどう膜炎の治療にはどんな方法があるの?
- 症状を緩和するにはどうしたらいいの?
猫のぶどう膜炎ってどんな病気?
ぶどう膜とは、眼を形作る膜のひとつであり、眼の中へ血液や栄養を運ぶ役目をしています。そのため、眼の中や全身の状態が悪くなると、炎症が起きやすい部位でもあります。
猫のぶどう膜炎は、眼のけがや特別な感染症によって、白目の部分が充血したり、眼をショボショボさせたり、虹彩と水晶体の癒着により瞳が小さくなったりする(縮瞳)病気です。なお、ヒトもぶどう膜炎になりますが、縮瞳が生じることはなく、猫や犬でよく認められます。
ぶどう膜炎は、放っておくと、緑内障や失明のおそれもあるので、早めに治療することが大切です。
緑内障のより詳しい原因、症状、予防については獣医師監修の「猫の緑内障」を併せてご覧ください。
どうして症状が出るの?原因は?
まず、ぶどう膜の構造について説明します。眼は三層の膜によって形作られており、外側からそれぞれ次の3つに分かれています。
- 角膜+強膜
- ぶどう膜
- 網膜
ぶどう膜は三層の中間の膜であり、さらに虹彩・毛様体・脈絡膜の3つの部位から構成されています。これら3つの部位の働きを説明しましょう。
虹彩には光の強さによって、瞳の大きさ(瞳孔)を調整する働きがあります。次に、毛様体には眼の栄養源である眼房水を産生する働きがあり、また、この眼房水の圧力により、眼の硬さ(張り)や大きさを一定に保つ役割があります。そして、脈絡膜には眼の後ろの部分へ栄養分を運んだり、排泄物を除いたりする働きがあります。
つまり、ぶどう膜は眼の中へ血液や栄養を運ぶ役割があるため、眼そのものだけでなく、全身の状態の影響を受けやすい部位でもあるのです。
ぶどう膜の種類
ぶどう膜炎のうち、虹彩や毛様体に炎症があるものを「前部ぶどう膜炎」、脈絡膜に炎症があるものを「後部ぶどう膜炎」、両方に炎症があるものを「汎ぶどう膜炎」と言います。
前部ぶどう膜炎では、まぶたや白目の部分、瞳の大きさなどに症状が現れることが多く、後部ぶどう膜炎では眼底や視力の障害として症状が現れることがよく見られます。
ぶどう膜炎の原因
猫のぶどう膜炎の原因としては、眼の外傷などによる外因性のものや、強膜炎や角膜炎などから波及する続発性のもの、特殊な疾患によるもの、過敏(免疫介在性)反応性によるもの、腫瘍によるものなどがあります。
猫のぶどう膜炎を引き起こす特殊な疾患としては、猫伝染性腹膜炎、猫白血病ウイルス感染症、猫エイズ(FIV)、トキソプラズマ感染症、全身性真菌感染症などが挙げられます。
また、原因がはっきりしない特発性のものも多く、詳細な確定診断ができないこともあります。
どんな猫がぶどう膜炎にかかりやすいの?
- 外飼い
- ほかの猫とけんかすることが多い
- ワクチン未接種
- 猫白血病や猫エイズ陽性である
- 真菌に感染している
- 高齢
けがをすることが多い環境にいる猫や、特殊な疾患にかかっている、もしくは感染しやすい状況にいる猫は、ぶどう膜炎にかかりやすいと言えます。
猫のぶどう膜炎の症状とチェック項目
猫のぶどう膜炎の特徴としては、前部ぶどう膜炎や後部ぶどう膜炎が多く見られます。
前部ぶどう膜炎は、虹彩や毛様体に炎症が起きますが、まぶたや白目の部分、瞳の大きさなど、比較的チェックしやすい部分に症状が現れます。また、脈絡膜に炎症が起こる後部ぶどう膜炎では、眼底や視力の障害として症状が現れることが多く見られますが、初期の後部ぶどう膜炎の場合は症状が出ないこともあります。
チェック項目としては、次のようなものが挙げられます。
- 白目の部分が充血している
- 眼の中に血管が見える
- 眼をショボショボさせる
- 眼が濁っている
- 涙が出ている
- 瞳が小さくなる(縮瞳)
- まぶたをピクピクさせる
- 眼の張りがない
- 物にぶつかる、オモチャやごはんを追わないなどの視力障害がある
猫の目の症状が上記のひとつでも当てはまる場合、ぶどう膜炎の可能性がありますので獣医師にご相談ください。
猫のぶどう膜炎はどうやって診断されるの?
スリットランプを始めとする特殊な眼科器具や機械を使って、眼の表面や内部、眼底に傷や炎症などがないかを詳しく調べていきます。これらによって、角膜の混濁や血管新生、虹彩や毛様体の充血や癒着、眼底の出血や網膜剥離などがある場合には、ぶどう膜炎が疑われます。
また、疑われる病気の診断のために、以下のような検査を行うことがあります。
- 血液検査によって猫白血病や猫エイズなどの感染症がないかを調べ、全身性の炎症の有無を確認
- 猫伝染性腹膜炎やトキソプラズマ感染症が疑われる場合には、血液や腹水、便などを検査する。
- 真菌症が疑われる場合には、皮膚や被毛を調べる。
- 腫瘍が疑われる場合には、エコー(超音波)検査を行う。
検査の内容によっては、結果が出るまで数週間かかる場合があります。また、詳しい検査の結果、ぶどう膜炎の原因がはっきりわかる場合もあれば、単にぶどう膜に炎症があるということしかわからないこともあります。
猫のぶどう膜炎の治療にはどんな方法があるの?
猫のぶどう膜炎を引き起こす原因が感染症を始めとする病気の場合は、その病気に対する治療を行います。
点眼薬
眼の中に傷や潰瘍がない場合には、ステロイドや非ステロイド性消炎剤の点眼薬を使います。また、散瞳薬の点眼により、縮瞳(瞳孔が過度に縮小する現象)を抑えることもあります。
外用薬や内服薬
点眼薬のほか、免疫抑制剤や抗生剤の内服薬を処方する場合もあります。真菌症がある場合には、抗真菌薬の外用薬や内服薬を処方します。
いずれの治療法も眼や全身の状態によっては悪化するおそれがあるので、必ず獣医師の診察を受けたうえで、用法容量を守って使用してください。
猫のぶどう膜炎は治せるの?
急性のものであれば、早期に正しい治療を行えば多くの場合、治すことができます。
ただし、慢性化したものや、長期間治療をせずに放っておいたもの、原因となる感染症、生活環境によっては治りにくかったり、一旦治ったとしても再発を繰り返したりするおそれがあります。
症状を緩和するにはどうしたらいいの?
猫のぶどう膜炎に対して、これをすれば確実に予防できるといったものはありません。しかし、完全室内飼いにする、毎年ワクチンを接種する、日ごろから眼や皮膚・全身の状態をよくチェックしておき、少しでも異常があれば動物病院で相談するようにしましょう。
猫のぶどう膜炎の症状を緩和するためには、適切な環境で飼育し、早期に動物病院を受診するようにしましょう。また、処方された点眼や内服薬の量や回数を守り、獣医師が治療完了の判断をするまでは、必ず通院を続けるようにしてください。
そのほか気になる猫の目の病気については、獣医師監修の「猫の疾患 目の病気」をご覧ください。
出典
- 改訂版 イヌ・ネコ家庭動物の医学大百科
- セベリンの獣医眼科学 第3版
- Dr.Martin's 獣医眼科学
- 千住製薬 犬猫の目の病気 瞳シリーズV
- ぶどう膜炎診療ガイドライン 2015 年 一般社団法人 日本獣医眼科カンファレンス JVOC
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