猫エイズ(猫後天性免疫不全症候群:FIV)の症状と原因、治療法について

最終更新日:2024年09月09日

本コンテンツは獣医師2名による確認を行い、制作をしております。

猫エイズってどんな病気?

猫エイズとは、猫後天性免疫不全症候群とも呼ばれ、猫免疫不全ウイルス(FIV: Feline Immunodeficiency Virus、通称「猫エイズウイルス」)感染によって引き起こされるさまざまな症状を合わせた総称です。

人の後天性免疫不全症候群(AIDS)と同様にウイルスの長期感染によって免疫担当細胞が疲弊します。その結果、猫の免疫機能が著しく低下し、さまざまな病気にかかりやすくなってしまい、最終的に死に至る怖い病気です。猫免疫不全ウイルス(FIV)は猫にのみ感染し、人や犬などほかの動物にうつることはありません。

猫免疫不全ウイルス(FIV)感染は、大きく分けて急性期、無症状期、後天性免疫不全症候群期の3つのステージに分類されます。猫エイズとは後天性免疫不全症候群期に進行した病態を示します。このウイルスに感染してもすべての猫が後天性免疫不全症候群期へと進行するわけではなく、その一部が猫エイズを発症します。

猫エイズ(FIV)の治療と予防の原因と症状

どうして症状が出るの?原因は?

猫免疫不全ウイルス(FIV)は猫同士の直接的接触によって伝播します。交尾、母子感染などでも感染が成立しますが、主な感染ルートは猫同士のけんかによるかみ傷です。

また、猫免疫不全ウイルス(FIV)は、猫のリンパ球や樹状細胞など免疫を司っている細胞に感染して増殖します。このウイルスに感染した猫の一部は、数か月から数年後に免疫を司っている細胞が疲弊して免疫系に異常が現れ、免疫不全状態に陥ります。すると、日和見感染(正常時には問題とならない常在の病原体によって引き起こされる感染症)や腫瘍、脳炎のような神経症状などが見られ、最終的に死に至ります。

どんな猫が猫免疫不全ウイルス(FIV)に感染しやすいの?

猫の品種による違いはありません。しかし、外に出している猫は、野良猫やそのほかの猫と接触する機会が多く、また、猫免疫不全ウイルス(FIV)感染は、猫から猫へ直接接触により広がっていくため、感染のリスクが高まります。

実際に、2010年の報告では、日本で飼育され外に出している猫を対象に検査したところ、23.2%の猫が同ウイルス感染の陽性であったとのデータがあります(Nakamura et al, J Vet Med Sci, 2010)。ちなみに、同時期の北米大陸のデータでは2.5%と報告されている(Levy et al, J Am Vet Med Assoc, 2006)ことから、ほかの先進国に比べて日本では同キャリアが多いことが示唆されています。

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猫免疫不全ウイルス(FIV)感染と猫エイズの症状とチェック項目

猫免疫不全ウイルス(FIV)に感染すると、急性期では、発熱、リンパ節の腫大(腫れて大きくなること)、白血球減少、貧血、下痢などの症状が現れます。この急性期は、数週間から数か月にわたって症状が続きます。その後、猫の免疫反応によって同ウイルスに対する抗体が陽転(陰性から陽性に変わること)し、無症状の期間が訪れます。この期間は、数か月から数年の間続きます。やがて、後天性免疫不全症候群(猫エイズ)を発症し、口内炎歯肉炎、日和見感染症、腫瘍、脳炎などの症状が現れます。

猫免疫不全ウイルス(FIV)感染と猫エイズはどうやって診断されるの?

猫免疫不全ウイルス(FIV)感染と猫エイズは、それぞれ次のような方法で診断されます。

  • 猫免疫不全ウイルス(FIV)感染:抗体検査
  • 猫エイズ:複数の症状の有無

猫免疫不全ウイルス(FIV)感染の診断

猫免疫不全ウイルス(FIV)の感染は抗体検査で診断できます。この抗体検査は、だいたいどの動物病院でも行われますが、生後半年ぐらいまでの子猫の場合は、母猫からの移行抗体によって擬陽性(陽性と陰性の中間であるもの)反応が出ることがあります。そのため、正確な診断のためには、数か月後に再検査をすることをお勧めします。

猫エイズの診断

後天性免疫不全症候群(猫エイズ)は、ウイルス感染陽性の猫で症状が進行し、口内炎、皮膚炎、下痢、発熱、痩せる、白血球減少、貧血、悪性腫瘍、日和感染症などの症状が複数認められた場合に診断されます。

猫エイズの治療にはどんな方法があるの?

猫エイズ(FIV)の治療と予防

残念ながら、今現在、猫免疫不全ウイルス(FIV)感染や猫エイズを完治させるような治療法は確立されていません。猫エイズを発症した場合、対症療法(症状を緩和する治療)を行うことになります。

なお、人のHIV感染に対する治療法が近年確立されていることから、近縁の猫免疫不全ウイルス(FIV)に対しても同様の戦略で、治療方法が将来的に確立できる可能性はあります。しかし、現状では猫免疫不全ウイルス(FIV)に対しては、予防が一番重要になります。

猫のエイズ治療にかかる診療費用の目安

猫のエイズウイルスを根本的に減らすような治療は現在では行われていません。

抗ウイルス薬などの開発は進んでいますが、副作用などもあるため臨床応用が難しい状況です。 また免疫不全状態にまでならずに、無症候性キャリアでいる猫が多いために、ウイルスを減らす積極的な治療を行わないのが現状です。

ただ、免疫不全によって歯肉炎や風邪症状、消化器症状、皮膚症状がでることがあり、それぞれの治療が必要になることが多いです。 抗菌薬(抗生物質など)の治療をする場合は都度5,000円から10,000円程度、下痢止めなどの治療では治療食も必要になる場合があります。

症状は繰り返すことが多いので、治療費は定期的に必要になるでしょう。

※あくまで参考例であり、診療費は動物病院によって異なります。

どうやって予防したらいいの?

猫免疫不全ウイルス(FIV)感染と猫エイズの予防には、次のような方法が有効とされています。

  • ワクチンの接種
  • 完全室内飼い

ワクチンの接種

猫免疫不全ウイルス(FIV)の予防法としては、第一の選択肢としてワクチンの接種があり、感染のリスクを低くすることが期待できます。

一方で、同ウイルスのワクチンの問題点がいくつか挙げられています。第一に、感染防御効果が完全ではないことです(感染のリスクをゼロにすることはできない)。これは人のワクチンでも同様ですが、感染のリスクを低くすることを目的とするならば許容できる問題でしょう。次に、ウイルス検査は、主に抗体を検出するものなのでワクチンによって抗体が誘導されると、感染との区別がつかなくなってしまうおそれがあります。そこでワクチンを利用する場合は、今後のことを考えて接種歴をきちんと記録しておくことが重要です。

完全室内飼い

ほかの方法としては、愛猫が見知らぬ猫と接触しないようにしましょう。猫免疫不全ウイルス(FIV)は猫から猫へと直接接触によって伝播しますが、その感染力は強くありません。同ウイルスに感染していない猫としか会わない環境、つまり完全室内飼いであれば、感染リスクがないのです。

また、飼っている猫が1匹の場合は、ウイルス検査の結果が陰性で完全室内飼いであれば、ワクチンを接種する必要はありません。また、複数の猫を飼っている場合でもすべての猫が陰性であり、完全室内飼いにしている場合も同様です。このように、感染症の観点や、猫を家の外に出すと交通事故や猫同士のけんかでけがをするリスクがあることから、可能ならば完全室内飼いが望まれます。

加えて、新しく猫を迎える場合や感染のリスクにさらされた可能性がある場合は、猫免疫不全ウイルス(FIV)の検査をお勧めします。

飼っている猫がエイズウイルスに感染している場合はどうしたらいいの?

猫免疫不全ウイルス(FIV)に感染していてもすべての猫が、猫エイズを発症するわけではなく、天寿を全うできる猫も数多くいます。

しかし、ストレスは免疫力を弱めてしまうだけでなく、また、不潔な環境では猫の免疫反応が促進され、同ウイルスの増殖を活性化させてしまうことが考えられます。ストレスがかからないようにし、清潔な生活環境を猫に整えてあげることが発症リスクの低下につながります。猫が快適に過ごせるように愛情をかけて飼育しましょう。

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