犬の無駄吠えの理由とは?やめさせる方法を行動診療科獣医が解説

最終更新日:2024年08月19日

「犬の無駄吠え」は、愛犬と暮らす多くの飼い主さんを悩ますペットの問題行動かもしれません。どうして犬は、うるさく吠えてしまうのでしょうか。そこには、きっと理由があるはずです。

本稿では、動物行動学や問題行動に詳しい獣医行動診療科認定医の奥田順之先生に、犬の無駄吠えの原因、その予防と対策についてお話を伺いました。

犬の無駄吠えの理由とは?問題行動をやめさせる方法を行動診療科獣医が解説

愛犬の「無駄吠え」に困っている飼い主さんは、とても多いと思います。でも、その吠えは犬にとって「無駄」とは言えないかもしれません。犬の気持ちに寄り添い、なぜ吠えるのかを考え、吠えの原因を理解すれば、犬との暮らしはもっと豊かになります♪

犬の無駄吠えの事例と原因

吠えの種類は千差万別!

犬の無駄吠えには、たくさんの種類があります。無駄吠えという犬の問題行動の改善には、その根本的な原因にアプローチすることが大切です。それぞれの「吠え」の特徴と原因を把握すれば、適切な対応ができるようになります。

チャイムや来客に対する吠え

原因は警戒すべき侵入者として認識するため

玄関のチャイムやインターホンの音、または来客に愛犬が吠えてしまうというのは、家庭内で最も多い吠えと言えるでしょう。なぜなら、来客は、犬にとって家に侵入してくる警戒すべき相手として認識されやすいからです。

家の中から外を通る人や車に対する吠え

原因は外を気にして番犬化するため

愛犬が家の外を通る人や車に吠えることもよくある事例です。道路がよく見える大きな窓は犬にとって見晴らし台のようなもので、外を気にして番犬化し、よく吠えるようになります。

犬の無駄吠えの事例と原因

散歩中、ほかの人や犬に対する吠え

原因は嫌悪感・恐怖心・警戒心から

散歩中に犬が吠える主な原因として、飼い主以外の人やほかの犬に近づいてほしくないという嫌悪感・恐怖心・警戒心が挙げられます。きっかけは、散歩中に知らない人から急に触られた、ほかの犬に吠えられたといった体験です。

例えば、子犬の場合、他人から触られると「うれしょん」をしてしまうことがあります。しかし、子犬はうれしいのではなく、他人の接近に圧迫感を抱き、排尿しているのです(服従性排尿と言います)。

逆に、ほかの犬や人に接近したくて興奮し、吠える場合もあります。その理由の多くは相手の臭いを嗅ぎたいからで、警戒よりも調べたい、嗅ぎたいという欲求が勝っている状態です。

家族に対する要求吠え

原因は自分の欲求を満たすため

家族に対して愛犬が吠えるのもよくある事例で、その主な原因は、何かを要求するためです。

犬は吠えれば、家族の食事中に味の濃い人間の食べ物をもらえたり、サークルから出られたりするなど、自分の要求が通ると学習していきます。

また、早く散歩に行きたくて、早朝に吠えて家族を起こす犬がいます。飼い主としては、朝方から愛犬に吠え続けられると困るので、つい散歩に連れて行ってしまいがちでしょう。

家族の動きに反応する吠え

原因は気持ちの高ぶり

家族に対する吠えの別パターンとして、家族の動きに反応するというものがあります。この原因は、犬の気持ちの高ぶりです。

例えば、家族が階段を降りてきて愛犬が吠える場合、家族がリビングに来るのを愛犬が心待ちにしてドキドキしている状態です。逆に、リビングで休んでいる家族が立ち上がり、部屋から出ていこうとすると愛犬が吠えるのは、家族の動きを制御しようとしている状態でしょう。

不安を原因とする吠え

犬の中には、家族が外出の準備をしている段階で、そわそわしたり、呼吸が荒くなったりすることがあります。また、実際に家族が家を出ようとすると、吠えたり、パニックを起こしたりすることもあります。このように、家族の外出によって生じる犬の不安を分離不安と呼びます。

また、漠然とした不安をもつ犬は、家族の外出のような特定の刺激に関係なく、常に落ち着かず、小さな物音に対しても過剰に吠えてしまうのです。

認知機能低下を原因とする吠え

犬も高齢になると認知症を患うことがあります。犬が認知症になると、家の中で迷子になる、昼夜逆転、飼い主を認識できなくなる、しつけを忘れる、活動性の低下、不安の増大、昼夜を問わず吠えるなどの症状が現れます。

犬の認知症について獣医師が詳しく解説

犬の無駄吠えを放置すると何が問題なのか

犬の無駄吠えを放置すると何が問題なのか

チャイムや来客に対する吠え

犬がチャイムの音と来客を結び付け、チャイムが鳴ると過剰に吠えるという問題が発生します。

家の中から外を通る人や車に対する吠え

自分が吠えて外を通る人や車を追い払えたと学習すると、吠える行動がさらに悪化します。

散歩中、ほかの人や犬に対する吠え

人になでられて愛犬がした「うれしょん」を「うちの子は人が大好き」と飼い主が勘違いし、愛犬を散歩中にたくさんの人になでさせる場合です。こうすると、人への恐怖心が高まってしまい、吠えを生じさせます。

人との接触を好んでいて、興奮して吠えている場合、犬は吠えながら接近することを繰り返すと、「吠えれば、人や犬とかかわれる」と学習し、より吠えるようになります。

家族に対する要求吠え

犬は、「吠えると自分の欲求を満たせる」という学習を促し、さらに吠えるようになります。

不安を原因とする吠え

犬の不安は、心の問題だけではなく、病気によって引き起こされる場合もあるため注意が必要です。

認知機能低下を原因とする吠え

愛犬が夜間寝ずに吠え続けると、人間の生活を破綻させかねない重大な問題となります。

犬の無駄吠えの予防と対策

犬の吠えの原因は上記のように多岐に渡り、予防や対策は異なりますが、共通する原因として、警戒心・興奮・不安といった感情の高ぶりがあります。犬の吠えを和らげるには、こうした感情の高ぶりを緩和し、落ち着ける環境が重要です。

社会化を促す・刺激に慣れさせる

犬が知らない人やほかの犬に吠える最も大きな要因は、それらに慣れていないことです。

犬では、生後4週から12週ごろの期間を社会化期と呼びます。吠えを予防するために最も重要なのは、この時期にほかの人や犬と触れ合い、刺激に慣れさせる社会化を行うことです。家に愛犬を迎えたら、すぐに抱っこして散歩に出かけ、社会化を促しましょう。

また、散歩にはフードを持って行き、知らない人からフードを与えてもらう、ほかの犬や車などに出会ったらフードを与えるなど、新しい刺激とフードを組み合わせて愛犬に学習させてください。これらの刺激を犬にとって安全なもの、いいものとして認識させるのです。

一方、社会化期を過ぎた成犬では学習のタイミングが遅いと思われがちですが、そんなことはありません。ゆっくり慣らしていければ、苦手な刺激でも克服できることがよくあります。あきらめずに少しずつ挑戦していきましょう。

犬の無駄吠えの予防と対策

吠えるきっかけとなる刺激を減らす

愛犬の吠えがすでに習慣化している場合、行うべき対策は、吠える対象となっている刺激を減らし、なくしていくことです。

例えば、家に大きな窓があり、外に向かって吠えるのであれば、その対策は窓の下半分に目隠しフィルムを貼って見えないようにすることです。また、散歩中にほかの人や犬に吠える場合、彼らとすれ違わないよう歩く方向を変えましょう。人間の食事中に愛犬が吠える場合、食卓から離し、別の場所に移動させます。

このように、きっかけを排除すれば、犬の吠えはコントロールしやすくなるのです。

ハウストレーニング

愛犬をいつでもハウスに入れるようにしておくことも吠え対策の有効な方法です。ハウスの指示で愛犬がハウスに入れるようになれば、来客や玄関のチャイムの音、外に向かって吠えるなど、さまざまな場面で吠えていても問題が解決します。その理由は、次のようなものです。

ハウストレーニングでは、毛布やタオルなどで心地よい寝床を用意して快適に過ごせるようにし、フードをハウスの中に投げ入れて誘導するようにしましょう。こうした練習を繰り返すことで、愛犬にハウスは安心して休めるいい場所であると学習させます。吠える場面に遭遇する前に、ハウスに入るようにすることで、警戒や興奮をしにくくなり、吠えるという行動そのものが起こりにくくなるのです。

要求には応えない

家族に対する要求で愛犬が吠えている場合、それに応えてしまえばさらに吠えるようになってしまいます。そこで、無視をして、要求吠えをあきらめさせるようにしましょう。

どうしても要求吠えがやまない場合、一時的に、吠え防止のための超音波発生装置を使用することがあります。また、スマートフォン用のアプリで超音波を発生するものがあります。いずれも犬に不快な刺激を与える装置ですから、専門家の指導の下、利用するようにしてください。

サプリメント・薬物療法

吠えの原因が過度の不安や認知機能の低下である場合、サプリメントや薬物療法も視野に入れる必要があるでしょう。これらの処方は獣医師が行いますが、問題行動を専門とする「行動診療科」での診察を下に受けるといいでしょう。

また、身体的な問題が原因で吠えが発生している場合は、身体的な疾患の治療を優先して行う必要があります。

犬の無駄吠えに対し、してはいけない飼い主さんのNG行動

叱って止めようとするのは逆効果!?

愛犬の吠えに、叱ってやめさせようとする飼い主さんは多いと思います。しかし、犬は知らん顔で吠え続けるなんてことはよくある話です。

愛犬を叱っても吠えるのをやめないのであれば、どんなに叱っても吠えが止まることは期待できません。それは、飼い主さんが犬の吠える原因に目を向けず、犬が吠えることだけを変えようとしているからです。根本的な改善のために、原因を取り除く対応をしていきましょう。

犬の無駄吠えに対し、してはいけない飼い主さんのNG行動

まとめ

犬にとって無駄吠えなんてありません。吠える理由を理解しましょう

吠えの原因は多くの場合、生活環境や飼い主さんの対応にあります。飼い主さんが変わらなければ、犬が変わることはありません。飼い主さんが、愛犬の生活環境や接し方の改善を行えば、愛犬が安心して暮らせるようになります。

犬にとって無駄吠えなんてありません。犬には無駄ではなく、大切な意味があって吠えているのです。その犬の気持ちを理解して寄り添うことができれば、吠えは「無駄」ではなく、あなたに向けた「メッセージ」になるのではないでしょうか。犬がなぜ吠えるのかをぜひ考えてあげてください。

そのほか愛犬の行動やしぐさが気になったら、獣医師監修の「犬の問題行動、どうしたらいい?」を併せてご覧ください。

執筆者プロフィール

奥田順之 先生

ぎふ動物行動クリニック院長、獣医行動診療科認定医、鹿児島大学獣医学部講師(動物行動学)。
犬猫の殺処分問題を解決するために、2012年NPO法人『人と動物の共生センター』を設立。家庭犬トレーナーと共に、犬のしつけ教室『ONE Life』を開業。2014年には問題行動の診察を専門に行う『ぎふ動物行動クリニック』を開業。著書に『"動物の精神科医"が教える犬の咬みグセ解決塾』ほか。

犬種別の保険料

  • 純血犬は、犬種により「小型犬」「中型犬」「大型犬」の3つに分類され、それぞれ保険料が異なります。犬種の区分については、「犬種分類表」をご確認ください。
  • ミックス犬の保険料は、年齢と体重により「小型犬」「中型犬」「大型犬」の3つに分類します。詳しくは、「犬種分類表」の「ミックス犬」の欄をご確認ください。
  • 猫の場合は、品種によらず純血猫もミックス猫もすべて同じ保険料です。
ア行~カ行犬の品種分類表
ア行
カ行
サ行~ナ行
サ行
タ行
ナ行
ハ行~ワ行・その他
ハ行
マ行
ヤ行
ラ行
ワ行
ミックス犬(※1)
  • 8か月未満:6kg未満
  • 8か月以上:8kg未満
  • 8か月未満:6kg以上~20kg未満
  • 8か月以上:8kg以上~25kg未満
  • 8か月未満:20kg以上
  • 8か月以上:25kg以上

※ 「犬種分類表」に記載のない犬種の分類につきましては別途お問い合わせ下さい。