犬のおしり歩きの原因とは?病院に連れて行くべき症状を獣医師が解説

最終更新日:2024年02月22日

犬のおしり歩きと呼ばれる、床におしりを擦りながら進むさまは、人間が見れば愛らしくコミカルに映るかもしれません。しかし、犬自身にとっては、違和感やストレス、痛みなどのサインなのです。そんな犬のおしり歩きについて、病院に連れて行くタイミング、予防や対処法などを獣医師さんに伺ってみました。

犬のおしり歩きは、原因や病状によっては自然に治らない場合があります。愛犬のいつもと違う動作やしぐさに気になることがあれば、すぐに獣医師さんに相談しましょう。

犬のおしり歩きの原因とは?病院に連れて行くべき症状を獣医が解説

犬のおしり歩きとは? その原因とは?

犬のおしり歩きとは?

―犬のおしり歩きについて教えてください。

犬のおしり歩きとは、おしりを床にこすり付けてすりすりと歩く様子のことです。何も知らずに見ていると、コミカルでかわいらしく感じてしまうかもしれませんが、犬はおしりに違和感を覚え、こういった行動を取ります。つまり、程度の差はあれ、犬にストレスがかかっているのです。おしり歩きが続くようであれば、何らかの病気かもしれないので、治療が必要になる可能性があります。

犬のおしり歩きの原因とは?

―犬がおしりをすりすりしながら歩く、おしりを引きずるのは何が原因になっているのですか?

かゆみ

肛門や肛門嚢にかゆみがあると、おしりをすりすりしながら歩いたり、おしりを引きずったりするようになります。特に多いのはトリミング後です。これはトリミングで、おしり周りの毛をバリカンで刈ると皮膚を刺激してしまうためです。

ちなみに、肛門嚢は肛門の斜め下(時計で言うと4時と8時の方向)に存在している袋状の構造で、そこに分泌物がたまります。この分泌物は排便時や興奮して力が入ると体の外に分泌されます。また、これは個体ごとに匂いが違っており、犬同士が個体識別をするときに利用されています。犬同士がおしりの匂いを嗅ぎあっている姿をよく見ますが、あれはこの分泌物の匂いを嗅ぎ合っているのです。

この分泌物は、本来なら自然に出せますが、自分で出せない犬も多く、そういった犬には肛門腺絞りをしてあげる必要があります。これをしないと、肛門嚢が破裂してしまうことがあるのです。

また、瓜実条虫という寄生虫に寄生されるとおしりに強いかゆみが出ておしり歩きをすることがあります。

違和感

肛門や肛門嚢に違和感がある場合も犬がおしりをすりすりしながら歩いたり、おしりを引きずったりするようになります。

例えば、肛門腺絞りをすると少し刺激になり、違和感を覚えてこういった症状が見られることがあります。トリミング後に、犬がおしり歩きをする原因として、肛門腺絞りの影響があるかもしれません。逆に、長い間肛門腺絞りをしないと肛門嚢に分泌物がパンパンにたまってしまい、違和感をもつことがあります。

これらのほか、何らかの病気によって、犬がおしり歩きをする場合があります。

犬のおしり歩きの原因として考えられる病気とは?

犬のおしり歩きの原因として考えられる病気とは?

―犬がおしり歩きをする、おしりを引きずる原因としてどんな病気が考えられますか?

おしりの皮膚炎

おしりの皮膚に炎症が起こると、かゆみや違和感が出ます。おしりの皮膚炎は、トリミングでバリカンをかけた刺激や、下痢が続いたとき、オムツをしていてこまめに交換していないなどの状況で見られます。また、アレルギー性皮膚炎や脂漏症といった皮膚炎の症状として、おしり周りにかゆみが出たり、赤くなったりすることがあります。炎症が重度になると犬が痛みを感じ、触ろうとすると怒るようになるかもしれません。

治療としては、おしりに外用薬を塗ったり、内服薬を飲ませたりします。

肛門嚢炎

肛門嚢に炎症が起きると違和感や痛みを覚えることがあります。肛門嚢炎は、肛門嚢に細菌が感染して起こり、肛門腺の分泌物がいつもの茶色や黒から黄色や緑色になることがあります

加齢や体調の変化、代謝の変化などにより分泌物が出せなくなり、たまりすぎてしまうことや、もともと自分で分泌物を出せず、肛門腺絞りをしないと、肛門嚢炎になるリスクが高くなります。

治療は肛門腺絞りを行い、肛門嚢を洗浄します。また、細菌感染に対して抗菌薬を使用します。

肛門嚢破裂(肛門腺破裂)

肛門嚢破裂(肛門腺破裂)とは、肛門嚢に分泌物がたまりすぎて、袋が破裂してしまう状態です。犬のおしりから血が出ている、おしりの横に穴が開いたと訴えて来院される飼い主さんが多いようです。痛みが強いため、犬にとって大きなストレスになります。

治療は、破裂した部分を洗浄して外用薬を使用し、内服薬を併用することもあります。

瓜実条虫の寄生

瓜実条虫はノミの体内にいる寄生虫で、犬がグルーミングをしているときにノミを飲み込んでしい、寄生されてしまいます。瓜実条虫は片節というかけらが連なった形状をしており、その片節がちぎれて、犬のおしりに出てくるときに強いかゆみを起こします。

犬の体に瓜実条虫が見つかった場合は、駆虫薬を飲むことで駆虫できます。ただ、ノミの寄生が根本的な原因であるため、同時にノミの予防も行う必要があります。

犬のおしり歩き、こんな症状ならすぐ病院へ

犬のおしり歩き、こんな症状ならすぐ病院へ

心配のいらない犬の場合

―犬がおしりをすりすりしていても、どういった場合であれば、様子を見てもいいですか?

肛門腺絞りをした直後であり、それほど頻繁におしりを擦りつけていない場合は特に問題ありません。数日で違和感が消えれば、この行動はなくなります。ただし、これによって犬のおしりに炎症が起きてしまい、症状が続いていたり、おしりが赤くなっていたりするようなら受診したほうがいいでしょう。

受診を強く勧める場合

―受診すべき状態の見分け方、併発するそのほかの症状を教えてください。

おしりの皮膚炎の症状

  • うんちをするときに痛がる
  • おしりを触ろうとすると怒る
  • 出血している

これらは炎症が重度であることの指標です。こういった状態が見られた場合は自然に治る可能性が低いため、病院を受診したほうがいいでしょう。

肛門嚢炎の症状

  • 肛門腺絞りを異常に嫌がる
  • いつもは出ていたのに分泌物が出せなくなった
  • 分泌物の色が変わった

これらは肛門嚢炎の典型的な症状です。肛門嚢炎は自然に治る可能性が低いため、病院を受診したほうがいいでしょう。

肛門嚢破裂(肛門腺破裂)の症状

  • 出血している

肛門嚢が破裂すると、皮膚も破れて出血します。犬にとっても痛みがあるため、肛門嚢が破裂したらできるだけ早く病院を受診したほうがいいでしょう。

犬のおしり歩きの対処法

犬のおしり歩きの対処法

おしりをきれいに洗浄して、肛門腺絞りを

―愛犬がおしりを引きずるようになったら、どう対処すればいいのでしょうか?

まず、愛犬のおしりの状態を確認してください。うんちのような汚れが付いている場合はきれいに洗ってあげましょう。

また、しばらく愛犬に肛門腺絞りをしていない場合は一度やってみて、おしり歩きがなくなるかを確認してください。おしりに赤みがあったり、先に挙げたようなおしり歩き以外の症状が見られたりする場合は、様子を見ずに病院を受診してください。

犬のおしり歩きを予防にするには?

犬のおしりを清潔に。月に1回の肛門腺絞りを

―予防法や飼い主が日ごろから気を付けるべきことを教えてください。

愛犬のおしり周りを常に清潔に保つようにしましょう。また、肛門腺絞りを定期的に行うことも大事です。間隔としては月に1回程度が目安になりますが、年齢とともにたまるスピードが変わることがあるため、たまる量を確認しながら間隔を調節します。肛門腺絞りはコツがあり、無理にやるとその刺激でおしり周りを痛がることがあります。難しそうなら、トリミングサロンや動物病院でやってもらいましょう。

まとめ

犬のおしり歩きは、見た目のかわいらしさやおかしさとは反対に、犬にとってはストレスを感じているサインです。今回ご紹介したようにさまざまな原因でこの症状が見られますが、中にはきちんとした治療が必要になるものもあります。あまり軽く考えず、お家で原因がわからないようであれば、早めに動物病院を受診してあげてください

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