犬の腹水の原因とはどんな病気?病院に連れて行くべき症状を獣医師が解説

最終更新日:2024年09月09日

本コンテンツは獣医師2名による確認を行い、制作をしております。

愛犬のお腹だけが膨らんできて様子がおかしいとしたら、「腹水」と呼ばれる症状かもしれません。犬の腹水の原因としてどんな病気が考えられるのでしょうか。また、病院に連れて行くタイミングや対処法などを獣医師さんに伺ってみました。

日ごろから愛犬の様子を観察し、状態や動作で気になることがあれば、すぐに獣医師さんに相談してください。

犬の腹水の原因とはどんな病気?病院に連れて行くべき症状を獣医師が解説

犬の腹水とは?

犬の腹水と聞いて、「何かの原因で犬のお腹にお水がたまり、膨らんでいる」といったイメージをもたれているかもしれません。しかし、これだけではなく、犬のお腹が膨らんでいなくても腹水が貯留している場合もありますし、お腹が膨らんでいる原因が必ずしも腹水だとも限りません。

一口に「犬の腹水」と言っても、その量も質もさまざまなのです。

腹水のメカニズムと犬に見らえる主な症状

健康な犬の体内にも、お腹の中には微量の腹水が存在しています。腹膜の毛細血管から染み出た水分が、この微量な腹水となり、臓器と臓器の摩擦を防ぐ潤滑剤として働いているのです。この腹水は、一生お腹の中にとどまるわけではなく、リンパ管に吸収されて少しずつ排出されていきます。そのため、健康な犬の腹水の量は、常に一定に保たれています。

しかし、この腹水が、何らかの原因によって排出路であるリンパ管の許容量を上回ると、排出できない腹水はお腹の中にたまり続けます。すると、病的な腹水として、さまざまな症状を犬に引き起こすようになるのです。大量の腹水がたまってやっと「愛犬のお腹が膨らんでいる」とその症状に気付きます。

犬の腹水では、お腹が膨らむこと以外に次のような症状が見られます。

  • 腹水の貯留によって体が重くなるため、元気がなくなる、疲れやすくなる
  • 消化管の活動が低下するため、吐こうとする、吐く、ご飯を食べなくなる
  • 横隔膜や肺を圧迫するため、息が苦しくなる
  • 腹水の中に大量のたんぱくや電解質が漏れ出ているため、脱水、栄養失調になる

犬の腹水の原因として考えられる病気とは?

犬の腹水の原因として考えられる病気とは?

たんぱくの減少

犬の体を構成するたんぱくである「アルブミン」が減少すると、血管の中の浸透圧が下がり、血管から水分が漏れ出し、腹水になります。アルブミン減少の原因には、次のようなものがあります。

  • 肝臓でアルブミンが作れない
  • 腎臓や消化管からアルブミンが漏れ出す
  • 大量出血している

犬のアルブミンが減少する原因として考えられる病気として、以下のようなものが挙げられます。

  • 慢性肝炎
  • 肝硬変
  • 門脈体循環シャント
  • 門脈低形成
  • ネフローゼ症候群
  • 腸リンパ管拡張症
  • 消化器型リンパ腫
  • パルボウイルス感染症
  • 回虫症など

全身のうっ血

うっ血とは、血液の流れが悪くなり、滞ってしまうことを言います。例えば、犬の心臓が何らかの障害によって全身に血液を送り出す機能が低下すると、うっ血によって全身の血管から水分が漏れ出し、腹水の貯留が起こるおそれがあります。この症状は老犬でよく見られます。

また、犬の肝臓が機能障害になると「門脈高血圧症」を引き起こし、門脈という太い血管から水分が漏れ出します。ほかにも、血栓が詰まったり、腫瘍の圧迫によって血流が邪魔されたりすると、うっ血した血管から水分が漏れ出して、犬に腹水が見られるようになります。

こうした全身のうっ血が犬に見られる原因として、以下のような病気が挙げられます。

  • 肺動脈狭窄症
  • 三尖弁異形成
  • 三尖弁閉鎖不全症
  • 拡張型心筋症
  • 僧帽弁閉鎖不全症
  • 間質性肺炎
  • フィラリア症(犬糸状虫症)
  • 肺血管塞栓症
  • 動脈管開存症
  • 心室中隔欠損
  • 心タンポナーデ
  • 慢性肝炎
  • 肝硬変など

腹腔内の炎症

犬の腹腔内(お腹の中)で強い炎症が発生すると、腹膜の血管から水分が染み出します。こうした原因として、犬が交通事故のような強い外傷によって腹壁を貫通することや、子宮蓄膿症のような感染を伴う病気などが挙げられます。

また、消化管穿孔によって消化管の内容物が漏れ出した場合も、犬の腹腔内に細菌感染が広がり、強い炎症を引き起こします。このほか、以下のような病気も犬の腹腔内の炎症の原因となります。

  • 膵炎
  • がん性腹膜炎
  • 胆嚢破裂による胆汁の漏出
  • 膀胱破裂による尿の漏出など

「PS保険」では、24時間365日、獣医師による無料※電話相談サービス「獣医師ダイヤル」を提供しております。病院へ足を運ぶまでの応急処置を含む医療相談から、素朴な疑問まで幅広く応対してくれるので、もしものときも安心です。

※:通話料はお客さまのご負担になります。

※当サービスは、株式会社チェリッシュライフジャパン(CLJ)と提携し、アニクリ24のサービスを提供するものです。

※Anicli24(アニクリ24)は獣医師による電話医療相談サービスを提供する動物病院です。

犬の腹水で、こんな症状ならすぐ病院へ

犬の腹水で、こんな症状ならすぐ病院へ

心配のいらない犬の腹水はない

犬のお腹が膨らんでいる原因は、腹水の貯留ではないかもしれません。しかし、お腹が膨らむほどの腹水が出ているのであれば、腹水を作り出している原因が必ずあります。様子を見ずに、すぐに愛犬を病院に連れて検査をしてもらってください。

生理的な微量の腹水以外に、心配のいらない腹水はありません。

受診を強く勧める犬の腹水の症状

犬のお腹の張りの原因が腹水であるなら、次のような症状が見られる可能性があります(必ず見られるわけではありません)。

  • 元気がなくなる
  • 疲れやすくなる
  • 吐こうとする
  • 吐く
  • ご飯を食べなくなる
  • 息が苦しくなる(ハアハアと荒い呼吸になる)
  • 脱水、栄養失調になる
  • 手や足がむくんでいる

犬のお腹の張りは、腹水だけが原因とは限りません。少し太ってきただけならいいのですが、妊娠、子宮蓄膿症、お腹の中のがん、胃拡張捻転症候群など、緊急で治療を行わなければいけない場合もあります。少しでも愛犬に異常を感じたら、すぐに動物病院に連れて行ってあげてください。

犬の腹水の治療について

犬の腹水の治療について

犬の腹水の原因となる病気を治療する

犬の体内に腹水がたまっているということは、必ず原因となる病気が隠されています。犬の腹水治療の基本は、動物病院で検査し、原因となっている病気の治療をしていくことです。

利尿剤

犬に利尿剤を投与すると、腎臓からたくさんの体液を尿として排出させられます。その結果、犬のお腹にたまる腹水の量を減らせます。

腹水を抜く

おとなしい犬であれば、外側から針を直接刺して腹水を抜去(ばっきょ:すっかり抜くこと)できます。暴れる犬であれば、麻酔をかけて行う場合もあります。犬の臓器を圧迫する腹水がなくなれば、症状を緩和できます。

ただし、抜去した腹水には、栄養素であるたんぱくが含まれているので、同時に栄養失調を引き起こすリスクがあります。また、大量の腹水を一気に抜去すると、犬の血圧が急激に低下してショック状態に陥る危険性もあります。

食事

犬の腹水の原因が、腸リンパ管拡張症のようなたんぱく漏出性腸症の場合、低脂肪・低アレルゲンフードによって症状が改善する場合があります。まず、犬に低脂肪食を与え、リンパ管への負担を和らげます。さらに、腸炎の原因にアレルギーが関与している可能性がありますので、犬に低アレルゲンフードを食べさせれば、腸炎を抑制させる効果が期待できます。

マッサージ

心疾患による血流の悪さが原因で犬の腹水がたまる場合、進行すると手足がむくみ始めます。特に、手先、足先、耳の先など、体の末端には血液が届きづらくなっています。愛犬の手先や足先を軽くもみ、マッサージしてあげれば、末端のむくみや冷えの改善につながります。

まとめ

犬の様子を見て、ただ太っただけなのか、腹水が出ているのか、またはまったく別の病気なのかは、獣医師でも調べてみないとわかりません。家庭内で悩み続けずに、病院で愛犬をしっかり検査して、病気の早期発見につなげましょう。日ごろから、愛犬をよくなでて、触っておくのも大切です。

「うちの子のお腹が張ってきた。太っただけ? 腹水?」と思われたら、すぐに動物病院に行きましょう。

そのほか気になる犬の体や行動の異常・変化については、獣医師監修の「犬の症状」を併せてご覧ください。

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犬種別の保険料

  • 純血犬は、犬種により「小型犬」「中型犬」「大型犬」の3つに分類され、それぞれ保険料が異なります。犬種の区分については、「犬種分類表」をご確認ください。
  • ミックス犬の保険料は、年齢と体重により「小型犬」「中型犬」「大型犬」の3つに分類します。詳しくは、「犬種分類表」の「ミックス犬」の欄をご確認ください。
  • 猫の場合は、品種によらず純血猫もミックス猫もすべて同じ保険料です。
ア行~カ行犬の品種分類表
ア行
カ行
サ行~ナ行
サ行
タ行
ナ行
ハ行~ワ行・その他
ハ行
マ行
ヤ行
ラ行
ワ行
ミックス犬(※1)
  • 8か月未満:6kg未満
  • 8か月以上:8kg未満
  • 8か月未満:6kg以上~20kg未満
  • 8か月以上:8kg以上~25kg未満
  • 8か月未満:20kg以上
  • 8か月以上:25kg以上

※ 「犬種分類表」に記載のない犬種の分類につきましては別途お問い合わせ下さい。

PS保険

記事監修:ペットメディカルサポート株式会社

動物病院での実務経験をもつベテラン獣医師および動物看護師が多数在籍するペット保険の少額短期保険会社。スタッフ全員が動物好きなのはもちろんのこと、犬や猫といったペットを飼っている者も多いので、飼い主様と同じ目線に立ったサポートに取り組んでいます。