犬の多飲多尿の原因とは?病院に連れて行くべき症状を獣医師が解説

最終更新日:2024年02月22日

犬が、やたら水を飲む、おしっこの量が増える原因としてどんな病気が考えられるのでしょうか。また、病院に連れて行くタイミング、予防や対処法などを獣医師さんに伺ってみました。

犬の多飲多尿は、何かの病気のサインかもしれません。気になることがあれば、すぐに獣医師さんに相談しましょう。

犬の多飲多尿の原因とは?病院に連れて行くべき症状を獣医師が解説

犬が多飲多尿になる原因は?

―犬が、やたら水を飲むようになったり、おしっこがたくさん出るようになったりする原因として、どのようなことが考えられますか?

飲水量や尿量の調節は、主に脳と腎臓が行なっています

水分が犬の体内から大量に出ていくと、血液中のイオンバランスが変化します。それを犬の脳が感知して、腎臓での尿の産生量を減らすホルモンを放出します。同時に犬の喉の渇きを刺激して、飲水量を増やそうとします。腎臓からも水分を犬の体内に保持させるホルモンを放出します。

反対に犬の体内の水分量が多すぎる場合は、腎臓で尿をどんどん作って水分を体の外に出すように働きます

脳、または腎臓の機能が障害されるような異常が起こると、水分の調節バランスが崩れてしまい、多飲多尿という症状が現われるようになります。

犬の多飲多尿はどうやって判断するのか?

―犬が、どのくらいの量の水を飲んだり、おしっこをするようになったりしたら多飲多尿と判断するのですか?

多飲と判断される犬の飲水量

犬の場合、飲水量が1日(24時間)で体重1kg当たり90~100ml以上で多飲と言えます。

夏場に激しい運動をする、あるいは短頭種のような呼吸の激しい犬種では、一時的にそれくらいの水を飲むことがあるため、この状態が持続するということがポイントです。

多飲と判断される犬の尿量

尿量は1日で犬の体重1kg当たり50mlを超えると多尿です。犬の尿量が増える分、おしっこの回数も増えます。

多飲多尿はさまざまな病気の症状として見られますが、いずれも初期は元気・食欲旺盛であることがほとんどです。しかし、病気が進行していくと、次第に元気・食欲低下、体重減少など、ほかの症状が犬に見られます。病気によっては、「腹部が張っている」と感じられる場合もあります。

多飲多尿で考えられる犬の病気とは?

多飲多尿で考えられる犬の病気とは?

―犬の多飲多尿を引き起こす病気として、どんなものがありますか?

犬の糖尿病

犬の糖尿病は、体内のインスリン分泌量が不足し、食事で摂取した糖分を利用できなくなる病気です。血糖値が高い状態が続くと尿糖が出てきたり、白内障になったりするなどの合併症を犬に引き起こします。

犬の糖尿病の症状は、多飲多尿や体重減少から始まり、高血糖状態が続くと昏睡(こんすい)してしまうおそれがあります。糖尿病では、尿に糖分が多く含まれるために水分の再吸収がうまくできなくなり「多尿」になり、その結果「多飲」になります。

腸尿病は、血液検査での高血糖と、尿検査での尿糖陽性が持続することで診断します。

糖尿病に関するより詳しい説明(原因、予防、治療法など)は、「犬の糖尿病」をご覧ください。

犬の副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)

副腎皮質機能亢進症は、クッシング症候群とも呼ばれ、副腎皮質で作られるコルチゾールというホルモンが過剰になってしまう病気です。犬で多飲多尿が見られる代表的な病気です。

コルチゾールは、犬の脳の水分調節を抑え、腎臓では脳からの指令を妨げるので「多尿」になり、その結果「多飲」になります。ほかには、脱毛や皮膚が薄くなる、お腹が張るといった症状が見られます。

副腎皮質機能亢進症は、血液検査で犬のコルチゾールの数値を測定したり、超音波検査で副腎のサイズを測ったりして診断します。

クッシング症候群のより詳しい原因、症状、予防については獣医師監修の「犬のクッシング症候群」を併せてご覧ください。

犬の子宮蓄膿症(未避妊のメス犬のみ)

犬の子宮蓄膿症は、避妊手術をしていない中高齢のメスでよく見られる病気です。タイミングとしては犬の生理が終わって少し経った時期で多く見られ、子宮の中に細菌感染が起こり、膿がたまります。

この細菌が作り出す毒素が犬の脳から出るホルモンを妨げるため「多尿」になり、その結果「多飲」になります。ほかには、犬に元気や食欲がなくなる、嘔吐する、外陰部から膿が出るといった症状が見られます。進行すると犬に敗血症を引き起こし、命にかかわるため、特に早期発見が重要です。

子宮蓄膿症は、犬の外陰部から膿が出ていれば症状から診断可能ですが、出ていない場合は超音波検査やレントゲン検査、血液検査を行います。

子宮蓄膿症のより詳しい原因、症状、予防については獣医師監修の「犬の子宮蓄膿症」を併せてご覧ください。

犬の腎臓病

腎臓病によって腎機能が低下して再吸収量が低下すると、どんどん尿が出てしまう「多尿」になり、その結果「多飲」になります。犬では慢性腎不全の初期で多飲多尿が、また、進行すると元気や食欲の低下、体重減少、嘔吐などが見られるようになります。

診断にあたっては、犬に血液検査や尿検査を行いますが、血液検査では病気がかなり進行しないと数値の異常が見られないため、発見された時点で末期だったというおそれがあります。

犬の多飲多尿の症状が見られたらすぐ病院へ

愛犬に見られる多飲多尿の症状が、一時的なものではなく本当の多飲多尿だった場合、原因となる病気は自然に治ることはありません。子宮蓄膿症のように緊急性の高いものもあるため、愛犬に多飲多尿を見つけたら、様子を見ずにできるだけ早く動物病院を受診してください。

家庭でできる犬の飲水量、おしっこの量の測り方

―家庭では、どうやって飲水量や尿量を測ればいいですか?

愛犬の飲水量を調べるときは、ペットボトルに水を入れて直接与えるか、そこからお皿に水を入れてください。ペットボトルの減った分が愛犬の飲水量になります。ドッグフードにも水分はある程度含まれていますが、そこまで厳密に測定する必要はありません。

また、愛犬がペットシーツにおしっこするのであれば、ペットシーツごと重さを測ることで尿量がわかります。しかし、愛犬が屋外でおしっこをする場合、尿量の測定は難しいので、飲水量から多飲であることがわかれば診断には十分です。

多飲多尿になりやすい犬種、犬の特徴とは?

多飲多尿になりやすい犬種、犬の特徴とは?

糖尿病の好発犬種

下記の犬種の年齢が8歳以上、性別はメスで多く見られます。

副腎皮質機能亢進症の好発犬種

副腎皮質機能亢進症は自然発生タイプと医原性タイプがあります。

自然発生タイプ

犬の年齢は、5歳以上での発生が多いとされています。

医原性タイプ

医原性タイプは長期にわたってステロイドを投与されていた犬で見られる可能性があります。

子宮蓄膿症

子宮蓄膿症は、犬種に関わらず避妊をしていない中~高齢のメスで注意が必要です。

腎臓病

腎臓病の好発犬種はないようですが、5歳以上の犬やホルモン関連の病気がある犬ではリスクがあると考えられています。

犬の多飲多尿の対処法・応急処置

犬の多飲多尿の対処法・応急処置

―動物病院では、犬の多飲多尿をどのように治療するのですか?

治療法は原因によって異なります。

  • 糖尿病に対しては、インスリン注射で犬の血糖値をコントロールします。
  • 副腎皮質機能亢進症に対しては、多くの場合、投薬による内科治療を犬に行います。
  • 子宮蓄膿症には、子宮卵巣全摘出を犬に行います。注射薬による内科治療も選択肢にはなりますが、再発の可能性もあるため、原則として外科治療が推奨されます。
  • 腎臓病は、薬で犬の病状の進行を遅らせたり、体にたまってしまう毒素を点滴で薄めたりする治療を行います。

―家庭でできる対処法・応急処置を教えてください。

家庭で症状を和らげる方法はないため、愛犬に多飲多尿を見つけたら、できるだけ早く動物病院を受診してください。

やってはいけないのは、愛犬に与える水を制限することです。水を制限すると犬に脱水症が起こってしまう危険があります。

―受診に際し、どんな準備をしたらいいですか?

愛犬の多飲多尿がいつから始まったか、1日の飲水量はどの程度なのかを記録しておくといいでしょう。

―治療中の食事や環境は、どのようにしたらいいですか?

犬に嘔吐がなければ、しっかりと栄養を取り、ストレスの少ない環境で過ごせるようにしましょう。細かいことは獣医師の指示に従ってください。

犬の多飲多尿の予防と注意点

とりとめもなく愛犬にステロイドを使用すると副腎皮質機能亢進症になるリスクがあるため、投与量や頻度は獣医師の指示に従ってください。

また、犬の子宮蓄膿症は避妊手術によって確実に予防できるため、メス犬を飼っているのであれば避妊手術をおすすめします。

まとめ

犬の多飲多尿で怖いのは、水をたくさん飲むことでもおしっこの量が増えることでもなく、その原因となる病気が進行して命にかかわる事態になることです。

そのため、愛犬に多飲多尿を見つけたら早めに動物病院を受診し、病気が確定したらきちんと治療を行いましょう。

犬の多飲多尿に関連する記事

そのほか気になる犬の体や行動の異常・変化については、獣医師監修の「犬の症状」を併せてご覧ください。

犬種別の保険料

  • 純血犬は、犬種により「小型犬」「中型犬」「大型犬」の3つに分類され、それぞれ保険料が異なります。犬種の区分については、「犬種分類表」をご確認ください。
  • ミックス犬の保険料は、年齢と体重により「小型犬」「中型犬」「大型犬」の3つに分類します。詳しくは、「犬種分類表」の「ミックス犬」の欄をご確認ください。
  • 猫の場合は、品種によらず純血猫もミックス猫もすべて同じ保険料です。
ア行~カ行犬の品種分類表
ア行
カ行
サ行~ナ行
サ行
タ行
ナ行
ハ行~ワ行・その他
ハ行
マ行
ヤ行
ラ行
ワ行
ミックス犬(※1)
  • 8か月未満:6kg未満
  • 8か月以上:8kg未満
  • 8か月未満:6kg以上~20kg未満
  • 8か月以上:8kg以上~25kg未満
  • 8か月未満:20kg以上
  • 8か月以上:25kg以上

※ 「犬種分類表」に記載のない犬種の分類につきましては別途お問い合わせ下さい。