犬の慢性腎不全の症状と原因、治療法について

最終更新日:2024年07月09日

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犬の慢性腎不全ってどんな病気?

慢性腎不全は、腎障害があり、持続的な糸球体ろ過量の低下が3ヶ月以上続いている病気です。

糸球体とは、腎臓の毛細血管が毛玉のように絡み合った構造で、血液をろ過しています。糸球体を含む腎臓の組織に何らかの異常が起こると、腎臓の機能が徐々に低下していきます。

腎臓は血液から尿を作る臓器ですが、尿には体に不要な老廃物や余分な水分が含まれています。しかし、腎不全になると、これらが正常に排泄できなくなって体内にたまってしまい、その結果、元気や食欲の低下、嘔吐といった尿毒症症状が見られるようになります。

尿毒症症状が出るまでの間、犬に体調不良を感じさせるような症状がほとんど現れず、老化だろうと思われることがしばしばあります。そのため、そのまま見過ごされてしまい、かなり病気が進行した状態で初めて発見されることがあるのです。

慢性腎不全と急性腎不全との違い

慢性腎不全と急性腎不全との違いは、「持続的に」腎臓病が存在するということです。また、急性腎不全は治療によって治る可能性がありますが、一方の慢性腎不全は残念ながら完治することがありません。そのため、慢性腎不全の治療の目的は、病気をなくすのではなく、腎臓を保護して毒素を薄めるような処置を行い、病気の進行をできるだけ緩やかにしたり、症状を抑えたりするということになります。

急性腎不全の症状、原因、治療法や予防法については、獣医師監修の「犬の疾患 急性腎不全」を併せてご覧ください。

犬の慢性腎不全の原因と症状

どうして症状が出るの?原因は?

犬の慢性腎不全は、全体の50から70%が糸球体の病気を原因として発症するという研究結果があります。糸球体の病気=糸球体疾患は、膜性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎といった免疫介在性(免疫が関係している病気)と、アミロイドーシス、糸球体基底膜のⅣ型コラーゲン異常による遺伝性腎炎、糸球体硬化症といった非免疫性に分けられます。これらの病気によってじわじわと腎臓の組織が壊され、やがて腎臓の機能が低下していきます。

糸球体腎炎のより詳しい原因、症状、予防については獣医師監修の「犬の糸球体腎炎」を併せてご覧ください。

どんな犬が慢性腎不全にかかりやすいの?

どんな犬種でも慢性腎不全にかかる可能性はあります。ただし、慢性疾患であることから、中高齢の犬がかかりやすいと言えるかもしれません。

犬の慢性腎不全の症状とチェック項目

多飲多尿の症状に注意

慢性腎不全は、急性腎不全と異なり、じわじわと進行するため、元気や食欲がなくなる、嘔吐するといった尿毒症症状が出るまで、あまり激しい症状は見られません。

一方、食欲が少しずつ落ちてきたり、痩せたりするという症状は見られるので、特に高齢で慢性腎不全になった場合は、病気の症状なのか、単なる老化なのかの見分けがつかないことがあります。気を付けたい症状としては、水をたくさん飲むようになった、尿の量が多くなり色が薄くなった気がするといったものです。

病気が進行し、やがて腎臓の機能が健康な状態の25%以下になると、尿毒症の症状が現れます。そして、口臭がアンモニア臭になる、あるいは毒素によってけいれんが起こることもあるのです。

犬の慢性腎不全はどうやって診断されるの?

犬の慢性腎不全は、主に血液検査と尿検査で診断されます。

血液検査

血液検査では、腎機能の低下を確認します。これは、生化学検査の尿素窒素(BUN)とクレアチニンというふたつの項目の数値上昇を指標としますが、腎臓の機能が健康な状態の25%以下にならないと異常値として検出できません。

尿検査

尿検査では、尿にたんぱくが出ていること、比重(尿の水分と固形成分の比率)が低下していることを確認して診断されます。しかし、尿たんぱくは病態によって検出されないことがあります。

一般の動物病院では早期発見が難しい

血液検査や尿検査の項目の中には、もう少し早期に腎機能の低下を判断できるものがあります。しかし、検査機械が少し特殊であるため一般の動物病院では検査できず、外部検査センターに依頼することが多いようです。そのため、ほとんどの動物病院で日常的に行われる検査だけでは、慢性腎不全の発見が遅れてしまうかもしれません。

犬の慢性腎不全の治療にはどんな方法があるの?

犬の慢性腎不全の治療と予防

治療は「食事療法」「内服薬」「リン吸着剤」「輸液療法」を組み合わせて行います。治療の根幹は、水和状態(体の水分バランス)の管理と食事療法です。

食事療法

食事療法は、リンというミネラル成分の制限が大きな目的となり、これが慢性腎不全の犬の延命効果を示す唯一の方法と考えられています。いろいろなメーカーから腎臓病用の療法食が発売されていますが、特徴は、リン、たんぱく、ナトリウムを制限しているということです。

慢性腎不全は、病態によって1から4までの病期(ステージ)に分けられており、ステージ1が最も初期で、1から4へと病期が進行していきます。

食事療法はステージ2から

この中で食事療法はステージ2から開始することが推奨されています。これは、あまり早期に始めてしまうと、低リン血症や高カルシウム血症を引き起こしてしまうためです。なお、犬が慢性腎不全になると、多くの場合、食欲が低下し、腎臓病用の療法食を食べてくれないのが治療の難しいところです。この場合は、リン吸着剤を併用します。

たんぱく制限

慢性腎不全のたんぱく制限はステージ3以上の尿毒症を軽減するために行われますが、犬の場合は糸球体疾患が多く、どのステージでもたんぱくの制限が推奨されています。しかし、早期のステージではたんぱく質が不足するという栄養面でのデメリットが大きくなってしまいます。療法食では、その点を脂質の増量でカバーしていますが、手作り食を与える場合は栄養バランスに注意が必要です。

内服薬

内服薬は、尿にたんぱくが出てくるのを抑える目的で使います。特に、犬で多い糸球体疾患では抗たんぱく尿のための第一選択薬です。

リン吸着剤

リン吸着剤はいくつかの種類がありますが、食事中のリンを吸着し、便と一緒に排出するという作用は同じです。そのため、食欲がない犬に無理に飲ませる必要はありません。

輸液療法

慢性腎不全になると多飲多尿になることが多く、健康な犬よりも脱水しやすくなっています。脱水は慢性腎不全を悪化させてしまうため、水和状態を維持するために輸液療法を行います。

しかしながら、本来は飲水量を増やし、脱水が起きないようにするほうが自然です。また、輸液を始めてしまうとやめることが難しくなるケースが多いため、むやみに行うべきではありません。実施する場合は、必要最低限の量とペースになるよう、獣医師との連携が重要になります。

犬の慢性腎不全は治せるの?

残念ながら、犬の慢性腎不全は治すことができません。治療の目的は、あくまでも病気の進行を遅らせること、そして尿毒症症状が出たらそれを抑えることです。

どうやって予防したらいいの? あるいは症状を緩和するにはどうしたらいいの?

犬の慢性腎不全は確実な予防法がありません。そのため、できるだけ早期に病気を発見して、必要なタイミングで治療に入れるようにすることが大事です。なぜなら、慢性腎不全は症状が出てきた時点でかなり進行しているため、元気なうちから定期的に健康診断を受けておかないと早期発見ができないからです。

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犬種別の保険料

  • 純血犬は、犬種により「小型犬」「中型犬」「大型犬」の3つに分類され、それぞれ保険料が異なります。犬種の区分については、「犬種分類表」をご確認ください。
  • ミックス犬の保険料は、年齢と体重により「小型犬」「中型犬」「大型犬」の3つに分類します。詳しくは、「犬種分類表」の「ミックス犬」の欄をご確認ください。
  • 猫の場合は、品種によらず純血猫もミックス猫もすべて同じ保険料です。
ア行~カ行犬の品種分類表
ア行
カ行
サ行~ナ行
サ行
タ行
ナ行
ハ行~ワ行・その他
ハ行
マ行
ヤ行
ラ行
ワ行
ミックス犬(※1)
  • 8か月未満:6kg未満
  • 8か月以上:8kg未満
  • 8か月未満:6kg以上~20kg未満
  • 8か月以上:8kg以上~25kg未満
  • 8か月未満:20kg以上
  • 8か月以上:25kg以上

※ 「犬種分類表」に記載のない犬種の分類につきましては別途お問い合わせ下さい。

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記事監修:ペットメディカルサポート株式会社

動物病院での実務経験をもつベテラン獣医師および動物看護師が多数在籍するペット保険の少額短期保険会社。スタッフ全員が動物好きなのはもちろんのこと、犬や猫といったペットを飼っている者も多いので、飼い主様と同じ目線に立ったサポートに取り組んでいます。