犬の股関節形成不全の症状と原因、治療法について

最終更新日:2024年07月09日

本コンテンツは獣医師2名による確認を行い、制作をしております。

犬の股関節形成不全ってどんな病気?

股関節は、大腿骨(太ももの骨)の骨頭と骨盤の寛骨臼(かんこつきゅう)との間の関節です。大腿骨頭は球状の形をしており、寛骨臼はお椀状の形をしています。この関節は、球の上にお椀が乗っているような状態で、球状関節と呼ばれています。

股関節形成不全とは、股関節の異常な発達、または成長で、関節のかみ合わせが悪くなる状態のことです。

犬の股関節形成不全の原因と症状

どうして症状が出るの?原因は?

股関節形成不全は、子犬と成犬では症状が異なります。

子犬の股関節形成不全

子犬では片方の足に突然症状が生じること(片側性)が多く、後ろ肢の痛みが強いため、動きが悪くなります。そのため、お尻や太ももの筋肉量があまり発達しません。こうした子犬の症状は、はまりが浅い大腿骨頭と寛骨臼がぶつかり、小さいレベルの骨折を生じることが原因です。このような骨折はすぐに治ってしまうので、多くの場合、足を引きずったり、明らかに痛がったりする様子は見られません。

成犬の股関節形成不全

成犬の股関節形成不全の悪化は、股関節形成不全によって生じる変形性関節症が原因です。

股関節形成不全では、股関節のはまりが浅いために関節が不安定になり、大腿骨頭や寛骨臼の表面にある関節軟骨が損傷を受けます。そして、関節に炎症が起き、変形性関節症と呼ばれる状態になります。変形性関節症は、関節を構成する骨の形が変化する病気で、大腿骨頭が扁平な形に、寛骨臼が浅い状態に変形するため、よりはまりが浅くなってしまうのです。

また、犬に痛みを生じるため、足を引きずる状態が続いたり、激しい運動後に足を引きずるようになったりします。この病状は、ほとんどが左右両側の足に発症(両側性)します。

どんな犬が股関節形成不全にかかりやすいの?

遺伝性疾患であり、大型犬に多い

父母共に股関節形成不全を持っている場合、生まれてくる犬の股関節が正常である可能性は7%しかなく、遺伝が大いに関係していると考えられます。しかし、環境や栄養状態など複数の原因が関与しているとも言われており、フードの摂取量や成犬時の体重制限によって、股関節形成不全の重症度を減らすことができるとされています。

また、股関節形成不全は大型犬でよく見られます。それは、その体重によって小型犬よりも骨の変化を起こす可能性が高いからです。一方、成犬時の体重が11~12kg以下の小型犬の場合、この病気を発症することはまれです。

好発犬種:ラブラドール・レトリーバーゴールデン・レトリーバーバーニーズ・マウンテン・ドッグセント・バーナードジャーマン・シェパード・ドッグロットワイラー など

犬の股関節形成不全の症状とチェック項目

ボディビルダー体型に変わる

股関節形成不全では、病状が進んでくると体重のかかる股関節に痛みが生じるため、前肢に体重を移動させるようになります。そして、前肢の使用量が増え、その筋肉量も増加します。そのため、体の前方は筋肉質で、後方は痩せているという逆三角形の「ボディビルダー体型」になります。

また、歩いている時に両側の股関節を曲げ伸ばしできる範囲が狭くなり、動かす際に痛みが生じるため、「腰振り歩行」や「うさぎ跳び走行」をするようになります。

腰振り歩行

腰振り歩行は、腰を左右に振る歩き方で、股関節の動きを減少させ、痛みが少なくなるようにしていると考えられています。別名「モンローウォーク」とも呼ばれています。

うさぎ跳び走行

うさぎ跳び走行は、特に走っている時に両側後肢を同時に蹴り出す歩き方で、股関節の安定性が著しく低い子犬で時々見られます。この歩き方は股関節の動きを減少させ、両側の後肢を同時に使用し、各股関節に生じる体重負荷を半減させて痛みを少なくしようとしていると考えられています。

犬の股関節形成不全に見られるチェックポイント

  • 立っているときの後肢同士の幅が狭く、ボディビルダーのような体型をしている
  • 腰を左右に振るような「腰振り歩行」をしている
  • 走る際に両側の後肢を同時に蹴り出す「うさぎ跳び走行」をしている

犬の股関節形成不全はどうやって診断されるの?

触診とレントゲン検査により診断をします。

触診

子犬で重度の股関節形成不全がある場合、股関節を動かすとほとんどが痛がります。この疼痛反応(振り向く、叫ぶ、かみつこうとする)を検出し、異常があると判断します。

レントゲン検査

レントゲン検査では、仰向けで両方の後肢を伸ばした状態で撮影します。このレントゲン写真で寛骨臼が大腿骨頭を十分に覆っていないと股関節形成不全の疑いがあります。そして、大腿骨頭や寛骨臼の変形といった変形性関節症がレントゲン写真で認められると、股関節形成不全は確定診断となります。

この場合、股関節自体を治療することは不可能です。そのため変形性関節症が始まる前に股関節形成不全を見つけなければなりません。しかし、レントゲン検査だけでは股関節形成不全を疑うことはできても、股関節の緩みを判断できないため、確定診断ができないのです。

PennHIP

変形性関節症が始まる前の股関節形成不全を診断するために、さまざまな方法が考案されていますが、最も有効とされる方法のひとつに「PennHIP」※というものがあります。この方法では、全身麻酔下で伸延器という特殊な道具を使用し、大腿骨頭を寛骨臼からできる限り外側に引っ張り、レントゲン写真を撮影します。このときの緩みの度合いで、将来、変形性関節症が生じるかを予測し、緩みが強い場合には積極的な治療介入を検討することできます。

※PennHIP(ペンヒップ:Pennsylvania Hip Improvement Program)とは、ペンシルバニア大学の獣医学科のDr.ゲイル・スミスが研究、開発をした犬の股関節形成不全の検査方法。

犬の股関節形成不全の治療にはどんな方法があるの?

犬の股関節形成不全の治療と予防

犬の股関節形成不全の治療法は大きく分けると、保存療法、股関節の安定性を改善する外科手術、救済的な外科手術の3つがあります。

保存療法

保存療法は軽度の股関節形成不全に対して行います。具体的には痛み止めや安静にすることで、痛みを減らし、安静にすることで関節が安定化するのを待つ方法です。また、肥満の場合には、減量して関節にかかる負担を減らすこともします。

股関節の安定性を改善する外科手術

股関節の安定性を改善する代表的な外科手術として、三点骨盤骨切り術というものがあります。これは骨盤の骨を切って、大腿骨頭に対する寛骨臼のはまりを改善する方法ですが、変形性関節症が始まっていない場合にのみ有効な治療です。

救済的な外科手術

変形性関節症が始まってしまい、また、保存療法に効果が見られない場合、救済的な外科手術を行うことがあります。これは、股関節を人工関節にする股関節前置換術と、痛みのある股関節を切除してしまい、周辺の筋肉だけで安定化する大腿骨頭骨頸切除術という方法です。

犬の股関節形成不全は治せるの?

軽度の股関節形成不全の場合には、保存療法のみで症状がなくなることがあります。また、重度でも変形性関節症が始まる前であれば、手術によって治すことが可能です。しかし、変形性関節症が始まってしまった場合には、救済的な外科手術により痛みを取り除き、通常の生活を送れるようにはなりますが、股関節自体の治療はできません。

どうやって予防したらいいの? 症状を緩和するにはどうしたらいいの?

体重が重い場合には症状が進行するので、肥満に注意しましょう。また、子犬で股関節を疑うような症状がある場合には動物病院を受診し、早期発見すると治療につながります。

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犬種別の保険料

  • 純血犬は、犬種により「小型犬」「中型犬」「大型犬」の3つに分類され、それぞれ保険料が異なります。犬種の区分については、「犬種分類表」をご確認ください。
  • ミックス犬の保険料は、年齢と体重により「小型犬」「中型犬」「大型犬」の3つに分類します。詳しくは、「犬種分類表」の「ミックス犬」の欄をご確認ください。
  • 猫の場合は、品種によらず純血猫もミックス猫もすべて同じ保険料です。
ア行~カ行犬の品種分類表
ア行
カ行
サ行~ナ行
サ行
タ行
ナ行
ハ行~ワ行・その他
ハ行
マ行
ヤ行
ラ行
ワ行
ミックス犬(※1)
  • 8か月未満:6kg未満
  • 8か月以上:8kg未満
  • 8か月未満:6kg以上~20kg未満
  • 8か月以上:8kg以上~25kg未満
  • 8か月未満:20kg以上
  • 8か月以上:25kg以上

※ 「犬種分類表」に記載のない犬種の分類につきましては別途お問い合わせ下さい。

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記事監修:ペットメディカルサポート株式会社

動物病院での実務経験をもつベテラン獣医師および動物看護師が多数在籍するペット保険の少額短期保険会社。スタッフ全員が動物好きなのはもちろんのこと、犬や猫といったペットを飼っている者も多いので、飼い主様と同じ目線に立ったサポートに取り組んでいます。